第37章 フードの男の正体
「お前……もしかして、転生者なのか?」怠田は問いかけた。
男は静かにうなずいた。
「そうだ。俺の名はデット。この世界に転生してきた……お前と同じ、元は日本人だ」
怠田は驚きを隠せなかった。まさか、同じ境遇の者が敵として目の前に立ちはだかるとは。
「でも、どうして魔王軍なんかに?」
デットは嘲笑を浮かべた。
「聞きたいか? なら話してやるよ。……俺は死に戻りの能力や最強の武器、あらゆるチートを女神から提案されたが、全て断った。そんなのに頼るのはプライドが許さなかったからな」
「じゃあ、何で能力がないまま転生を?」
「……女神を連れ出そうとしたんだよ」
「は?」
デットはため息をついた。
「俺は、あの女神が好きだった。だから、一緒に異世界に連れて行こうとしたんだ。そしたら、逆に何の能力も与えられずに、異世界に放り込まれた」
怠田は唖然とした。女神を連れ出す? そんなことを考えるなんて……。
「その後のことは散々だったさ。冒険者になって女2人とパーティーを組んだが、不運続きで多額の借金を抱え、……結局、魔王軍に入るしか生きる道はなかった」
デットの目には、深い哀しみと絶望が浮かんでいた。
「笑えよ。俺は女神を連れ出そうとして、逆にこの世界に囚われちまったんだ」
怠田は拳を握りしめた。
「笑えねぇよ……そんなの。俺だって、楽して生きたいって願っただけだ。なのに、こんな面倒なことばっかり巻き込まれて……」
二人の視線が交錯する。
デットは目を細めた。
「そうか……お前も、楽して生きたいだけの奴か」
怠田は苦笑いを浮かべた。
「そうだよ。……働きたくないだけなんだ。でも、誰かを傷つけてまで楽はしたくねぇ」
その言葉に、デットの目が一瞬だけ揺れた。
「……綺麗事だな」
「かもな。でも、俺は俺のやり方で楽して生きる道を探す。それが、怠惰スキルを持った俺の生き方だから」
デットは静かに笑った。
「なるほどな。……なら、お前の怠惰が俺の絶望を打ち砕けるか、試してみろ」
デットの手から黒いエネルギーが放たれる。絶望の力が具現化したかのような攻撃だった。
怠田は怠惰スキルを発動させ、最小限の動きで攻撃をかわす。
「俺は……働かずに生きるために、お前に勝つ!」
二人の戦いが、再び激しさを増していった。
果たして怠田は、公的扶助を手に入れられるのか――。
第38章 「怠惰の果てに」
激しい戦いの最中、怠田はデットの攻撃をかわし続けていた。しかし、怠惰スキルを駆使しても、相手の圧倒的な力を前に次第に追い詰められていく。
「楽して生きたいだけの奴が、俺に勝てると思うな!」
デットの叫びと共に、黒いエネルギーが怠田を包み込む。動きが鈍ったその瞬間、デットの手が怠惰の書を掴んだ。
「なっ……!」
怠田は反射的に取り返そうとしたが、デットは素早く距離を取る。
「これが、お前の力の源か」
デットは怠惰の書を手に取り、冷笑を浮かべる。
「なら、その力、俺が頂く!」
デットの体から黒いオーラが立ち上り、怠惰の書からエネルギーが吸い取られていく。
怠田の体から力が抜け、膝をついた。
「くっ……動けねぇ……」
今まで怠惰スキルに頼り切っていたため、体力はほとんど残っていなかった。
「これで終わりだ、爆裂魔法!」
デットは強大なエネルギーを手に、トドメを刺そうとした。
(何か……何か方法はないのか……?)
怠田は必死に考えた。しかし、何も思いつかない。
(くそっ……もうダメだ……)
考えるのを諦め、力なく目を閉じた。
その時――。
「諦めるのは早いんじゃないか?」
聞き覚えのある声が響いた。怠田が目を開けると、目の前に巨蟹課のデスマスク課長が立っていた。
「デスマスク課長……?」
「お前にはまだ、俺のロビソマスクを返してもらってねぇんだよ」
デスマスク課長は怠田をかばうように立ち、デットに向かって歩み出した。
「何だ貴様は……?」
「俺は課長だよ。しかも、お前みたいに陰気な奴は嫌いでねぇ」
「……チッ、邪魔だ!」
デットが黒いエネルギーを放つが、デスマスク課長は軽くかわし、拳を叩き込んだ。
「ぐっ……!」
デットがたじろぐ。
「怠田、大丈夫か!」
振り返ると、アルデバラン課長が駆け寄ってきた。
「アルデバラン課長……!」
「一人で全部抱え込むなよ。俺たちは仲間だろうが!」
さらに、他の課長たちも続々と現れた。
「まったく、迷惑な奴だぜ」白羊課のムウがため息をつきながらも、治癒の力で怠田の傷を癒してくれる。
「君を倒すのは私だ!」獅子課のアイオロス課長が電撃をまとったクリップを構えた。
「こいつは多勢に無勢だな……」
デットは汗を垂らしながらも、必死に反撃するが、十二課の課長たちが総出で襲いかかる。
「これが……お前の力なのか……!」
デットは抵抗を続けるが、さすがの彼も多勢に無勢。圧倒的な数の力の前に、あっけなく倒れてしまった。
「これにて一件落着だな」
アイオロス課長がクリップをしまい、ホッとした顔で怠田を見つめる。
「で、お前は何しにここに来たんだ?」
シャカ課長が問いかける。
怠田は思い出したように申請書を取り出した。
「俺、公的扶助を申請しに来たんだ」
「……お前、本当に怠惰な奴だな」
課長たちは呆れたように顔を見合わせた。
「最も市長に近いとされる私が、市長代理として代わりに受け取ってやろう」
シャカ課長が微笑み、受理してくれた。
「これで……本当に公的扶助を……?」
怠田は信じられない様子で申請書を見つめる。
「お前がここまで来れたのは、怠惰だからじゃない。諦めなかったからだ」
シャカ課長の言葉に、怠田はハッとした。
(俺……諦めてなかったのか……)
そして、ついに――。
「公的扶助ゲットォォォォォォ!」
怠田は天に向かって叫び、ガッツポーズを決めた。
その瞬間火時計の時計の火は消えた。
課長たちは苦笑いを浮かべながらも、どこか誇らしげに怠田を見つめていた。
こうして怠惰は村へ帰って、公的扶助で楽して生きていくのだった。
ここでエンディングが流れる。
第1部完
…
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…
この物語を読んでる人にだけアリシアの声が聞こえる。
「まだまだ続きがありますが、怠惰様の物語はここで、一旦終了です。」
「公的扶助を受け取った怠惰様に、あんなことが起きるのですが、ここから先は内緒です。」「続きを読みたい人は、大手出版社様に書籍化のお願いをして実現すれば、続きが読めますよ。」
「第2部は別の主人公の物語です。」
「それではみなさんまたお会いできる日を楽しみにしてますね。」




