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第31章 磨羯課の宿命

 人馬課の謎めいた部屋を後にし、僕は磨羯課の扉の前に立っていた。

 重厚な扉には、威圧感のある文字が刻まれている。

「磨羯課 課長 シュラ」

(なんだか……強そうな名前だな)

 僕はごくりと唾を飲み込む。

 これまでの課長たちが強敵ばかりだったことを思い出すと、油断はできない。

 ゆっくりと扉を押し開けると、中は広い道場のような部屋だった。

 床には武道用の畳が敷き詰められ、壁には数々の武具が飾られている。

 そして、部屋の中央には、一人の男が立っていた。

「よく来たな、怠惰を求める者よ」

 男は筋肉質な体躯に黒い柔道着を纏い、その腕には黄金の刃が輝いていた。

 長い黒髪を背に流し、鋭い眼光をこちらに向けている。

「俺が磨羯課の課長、シュラだ。貴様に試練を与えよう」

 僕は背筋を正した。

 これまでの課長たちとは違う、凄まじい威圧感を放っている。

「……印鑑をもらいに来ただけなんだけど」

「その印鑑を手にするには、俺に勝たねばならん!」

 シュラは腕を構え、その黄金の刃が眩い光を放った。

「覚悟しろ、俺の剣は大地を裂き、空を断つ! エクスカリバー!!」

 轟音と共に放たれた黄金の光の刃が、空間を引き裂きながら僕に襲いかかる。

 反射的に身を翻し、辛うじてその一撃を避ける。

(あれに当たったら……ただじゃ済まない!)

 しかし、シュラは容赦なく次の攻撃を繰り出してくる。

 圧倒的な速さと威力に、僕は防戦一方となった。

 その時、道場の扉が勢いよく開かれた。

「待てぇぇぇぇ!!!」

 現れたのは、緑の鎧の騎士――ゴリュウだった。

 村にいたあの男が、なぜここに?

「貴様がシュラか……王妃を襲ったのは貴様の仕業だな!」

 ゴリュウは怒りに満ちた表情で、シュラに向かって突進する。

「貴様は……あの時の生き残りか。面白い、相手になってやる!」

 黄金の刃が閃き、緑の鎧が激しくぶつかり合う。

 その衝撃で部屋が揺れ、壁に飾られていた武具が落ちてくるほどの激闘が繰り広げられた。

「ゴリュウ! 気をつけろ、あいつの剣は――」

「わかっている!」

 ゴリュウは鋭い眼光でシュラを睨みつけ、渾身の拳を叩き込む。

 だが、シュラはそれを受け止め、不敵な笑みを浮かべた。

「甘いな……これで終わりだ! エクスカリバー!!」

 黄金の光がゴリュウを直撃する。

 緑の鎧が砕け散り、ゴリュウは膝をついた。

「ぐっ……強い……だが、まだだ!」

 瀕死の状態になりながらも、ゴリュウは立ち上がった。

 その目には決死の覚悟が宿っている。

「こうなったら……貴様と道連れだ!」

 ゴリュウは突如、シュラに飛びかかり、羽交い締めにした。

「な、何をする気だ!?」

「これで終わりだ、シュラ! お前はここで終わる!」

 ゴリュウは力の限りシュラを抱えたまま、道場の窓に向かって突進する。

 ガラスが砕け散り、二人は宙を舞った。

「ゴリュウ!!!」

 僕の叫びも虚しく、二人の姿は光の中へ消えていった。

 しばらくの静寂が続き、僕は呆然と立ち尽くした。

(ゴリュウ……助けてくれたのか……)

 悲しみに暮れる僕の前に、突然、瀕死のゴリュウが現れた。

「えっ!? お、お前、生きてたのか!?」

「ああ、なんとか戻ってこれた……それより、これを受け取れ」

 ゴリュウは懐から印鑑を取り出し、僕に手渡した。

「でも、さっき一緒に落ちて――」

「……気にするな」

 ゴリュウは口元に微笑みを浮かべると、そっと背を向けた。

 その背中は、どこか哀愁を帯びている。

(ま、まあ……助かったんだから、いっか)

 僕は印鑑を申請書に押し、次の課へと足を踏み出した。

 次は宝瓶課――残る試練はあと少しだ。




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