第1章 転生したけど、動きたくない
第1章 転生したけど、動きたくない
目を覚ますと、目の前に絶世の美女がいた。 ふわりと輝く金髪、透き通るような青い瞳、そして背中には純白の羽根。
「あなたは不幸にも命を落としました。しかし、特別に異世界へ転生するチャンスを与えましょう」
まぶしすぎるほどの神々しさを放つ彼女は、まぎれもなく女神だった。
(ああ、俺、過労死したのか……)
20年間、働きもせず怠惰な生活を送ってきたのだから仕方ない。悲しいが、もはや驚きはない。
「……じゃあ、今度こそ楽に生きたいんで、働かなくてもいいチート能力ください」
俺の願いはただひとつ。もう二度と苦労なんてしたくない。悠々自適のニートライフを送りたい。
「承知しました。それではあなたには《怠惰スキル》を授けます」
「やった! ……で、それどんなスキル?」
「《怠惰スキル》は、一定時間動かずにいると、周囲の人間が無意識にあなたを助けたくなるというものです」
「……ん?」
「例えば、食事の時間になれば誰かが食事を運んできますし、移動しなければならない時も誰かがあなたを運んでくれます。極限まで怠惰を極めることで、あなたは究極の楽を手に入れるでしょう!」
「すごい! 最高のスキルだ!!」
つまり俺は動かずにいるだけで、世界が俺に優しくなるってことだな!?
「では、あなたを異世界へ転生させます。楽しい人生を!」
そう言うと、女神は俺の額に光を灯し、意識が遠のいていった。
目を覚ますと、そこは美しい草原だった。 青空の下、心地よい風が吹き抜ける。
「よし、とりあえず寝るか」
俺は草の上に寝転がり、目を閉じた。 (これからは動かなくても誰かが世話してくれる……最高だ……)
そう思っていた。 しかし――
「おい、起きろ!!」
ドスンッ!!
誰かに蹴られた。痛い。めっちゃ痛い。
「はあ!? なんで!? 俺の《怠惰スキル》が発動してないのか!?」
蹴ってきたのは鎧を着た中年のオッサンだった。 鋭い目つきで俺を見下ろしている。
「見知らぬ森で寝転がってるとは、お前、何者だ?」
「えっと……転生者です?」
「ほう……なら働け」
「いやいやいや!! 俺は楽するために転生したんですよ!? なんでいきなり働かされそうになってるんですか!?」
――こうして、俺の「楽して生きる異世界生活」は、なぜか働くところから始まったのであった。