第12章 働きたくないのに村の修理!?
「いやいやいや、なんで俺が修理なんてしなきゃいけないんだよ!」
僕は大声で抗議した。
目の前には、戦いの余波で半壊した村の家々。壁は崩れ、屋根は穴だらけ。どう見ても手遅れ感満載の廃墟と化している。
「太一様、村を救ってくださったのですから、せめて修理のお手伝いを……」
アリシアが困った顔で頼み込んでくる。
可愛い顔でお願いされると、断りづらいじゃないか……!
「いや、俺はただ怠けてただけで、戦ってなんかいないし……」
「ですが、あのリヴァルスを撃退できたのは太一様のおかげです! 村人たちもみな、感謝していますよ!」
アリシアの指差す方を見ると、村人たちがこちらを見て手を振っている。
「英雄様!」「助けてくれてありがとう!」
純粋な笑顔が眩しすぎる……。
「くっ、これだから善行は嫌いなんだよ……!」
「それに、太一様は《怠惰スキル》をお持ちですよね?」
「えっ?」
アリシアがキラキラした目で見つめてくる。
「《怠惰スキル》を使えば、楽に修理ができるのではないでしょうか?」
「…………」
……そうか! その手があった!
《怠惰スキル》は、動かずにいることで周囲の人間が手伝いたくなるスキル。
つまり、俺が動かなければ、村人たちが勝手に修理をしてくれるはず!
「なるほど、じゃあ修理を始めるか!」
「はい! 私もお手伝いします!」
アリシアが笑顔で答える。
よし、作戦は完璧だ。あとは何もしなければいいだけ!
数時間後
「うおおおお、重い! なんで俺が材木運ばなきゃいけないんだよ!?」
予想外だった。まさか村人たちが「英雄様自ら手伝ってくれるなんて!」と大喜びし、俺に一番重労働な仕事を押し付けてくるとは……!
「太一様、頑張ってください! 村のためです!」
アリシアがキラキラした目で応援してくる。
くっ、可愛い顔で応援されると断れない……!
「ちくしょう、こうなったら……」
僕は材木を地面に放り出し、その場にへたり込んだ。動かない、喋らない、徹底して怠惰を極める。
「太一様、急に動かなくなった!?」
アリシアが心配そうに駆け寄ってくる。
「もしかして、疲れてしまったのですね……」
よし、これで働かなくて済むぞ……。
そう思った瞬間、村人たちがざわざわと集まってきた。
「英雄様が倒れた!?」「大変だ、誰か手伝わなければ!」
お、きたきた! これでみんなが働いてくれる……!
「英雄様を休ませてあげなければ!」
「そうだ、村一番の豪邸にお連れしよう!」
「ついでにマッサージを施して、最高のもてなしを!」
……ん?
「よっしゃ、運ぶぞー!」
「せーのっ!」
「ちょ、待て、俺のことを運ぶなぁぁぁ!」
《怠惰スキル》の効果で、村人たちは俺を重労働から解放してくれた。
だが、それは同時に「一切動けない状態」にされることを意味していた。
「英雄様はここでゆっくりお休みください!」
ふかふかのベッドに寝かされ、両腕両足を布団で固定されてしまった。
まるでミイラのように、動けない。
「これじゃあ修理が進まないじゃないか! 俺をここから出してくれ!」
「いけません! 英雄様が休むことが村のためです!」
「いやいや、修理のために来たんだってば!」
村人たちは僕の言うことを一切聞かず、極上のおもてなしを続けてくる。
高級料理を口に運ばれ、頭をなでられ、マッサージをされ――完全に動けない。
「……こうしてる間に、修理が進まないじゃないか」
僕は絶望の中で涙を流した。
まさか《怠惰スキル》がこんな形で裏目に出るとは……。
さらに数時間後
「うおおおお、疲れたあああ!」
結局、修理の手伝いをする羽目になった。
《怠惰スキル》を使えば使うほど、村人たちは僕を休ませようとし、その結果、修理が全く進まなかったのだ。
「太一様、今度はそちらの屋根の修理をお願いします!」
「はいはい、今行きますよ……」
僕は怠惰な魂を引きずりながら、重い脚を動かして屋根に登った。
何が楽して生きるだ。結局、働く羽目になるじゃないか……。
「……次こそ、もっと楽に生きてやるからな」
空を見上げ、僕は決意を新たにした。
けれど、そんな僕の決意を嘲笑うかのように、屋根の板がギシギシと不吉な音を立てた。
「え、ちょ、待て、これって――」
バキンッ!
「うわああああああああ!!」
僕は屋根ごと派手に崩れ落ち、村人たちの悲鳴がこだました。
楽して生きたいだけなのに、どうしてこんな目に遭うんだろう……。
次回、村の修理編、完結!
太一は無事に楽な生活を手に入れられるのか!?