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第11章 対峙する意志

「絶対に、負けられない……!」

 僕の言葉に、リヴァルスは冷笑を浮かべた。

「その怯えた顔で、よくそんなことが言えたものだ。お前は戦士でも英雄でもない。怠け者の人間だろう?」

 その通りだった。僕は戦いたくなんてないし、英雄になりたいとも思っていない。

 楽して生きたいだけの、ただの怠け者だ。

 けれど、僕の後ろには怯える村人たちがいる。アリシアが必死に防御の魔法を張り巡らせ、みんなを守ろうとしている姿が見える。

 ここで逃げ出したら、彼らは皆、リヴァルスに蹂躙されてしまう。

「俺は……ただ怠けたいだけだ。でも、だからって逃げるわけにはいかないんだよ!」

 僕は両手を広げ、《怠惰スキル》を最大限に発動させた。

 力を抜き、心を無にして、まるでその場に溶け込むような感覚――。

「何を企んでいる?」

 リヴァルスが目を細め、疑念を抱いた瞬間だった。

「太一様! 援護します!」

 アリシアが強化魔法を唱え、僕の身体がふわりと軽くなった。彼女の魔力が僕の動きをサポートしてくれている。

「アリシア、助かる!」

「……ほう、仲間の力を借りるというのか。しかし、そんな小細工が通用すると思うなよ!」

 リヴァルスの掌から闇のエネルギーが放たれ、黒い雷が僕に向かって飛んできた。

 避ける時間は――ない!

 だが、その瞬間、僕の身体は自然に横へ転がり、攻撃をかろうじてかわした。

 《怠惰スキル》が発動したのだ。動かないという意志を貫いたことで、アリシアの強化魔法が僕を自動的に動かしてくれた。

「なに……!?」

 リヴァルスが驚愕の表情を浮かべる。僕自身も驚いていた。スキルの力が、思った以上に強力に作用している。

「なるほど、怠けることに特化したスキルというわけか。だが、それだけでは俺には勝てん!」

 リヴァルスは再び闇の刃を構え、猛然と突進してきた。

 速い――! 目にも留まらぬ速度で、彼の刃が僕を襲う。

「くっ……動け、動いてくれ!」

 必死に叫んだ瞬間、僕の身体はまた自然に後方へ跳び退った。まるで無意識に避けているかのような動き。

 《怠惰スキル》は、僕が「動きたくない」と思えば思うほど、自動的に身体を守ろうとするのだ。

「これは……!」

 僕はスキルの本質に気づき始めていた。このスキルは、受動的な防御を極限まで高めるもの。

「動かない」という意志を貫くことで、周囲の力を利用し、危機を回避する力――。

「動かずに……勝ってみせる!」

 僕はその場に腰を下ろし、あえて無防備な姿勢を取った。

 リヴァルスの目が鋭く光る。

「ふざけているのか!? その無様な姿勢で俺に勝てるとでも?」

「そうさ、俺は怠け者だからな。動くのはお前の方だ……!」

 挑発するように言うと、リヴァルスは激昂した。闇のオーラがさらに膨れ上がり、一気に距離を詰めてきた。

「この怠け者がァァァッ!」

 リヴァルスの闇の刃が、容赦なく振り下ろされる。その瞬間、アリシアの防御魔法が僕の周囲に展開され、衝撃を和らげた。

 だが、それでも衝撃は強烈で、地面が割れ、土埃が舞い上がる。

「これで終わりだ……!」

 リヴァルスが勝利を確信したその時、僕の身体がふわりと浮き上がった。アリシアの強化魔法が再び作用し、僕を空中へと避難させたのだ。

「なんだと!?」

「俺は……動いてないぞ。全部、仲間の力だ」

 《怠惰スキル》は、僕が動かずにいる限り、周囲の状況を利用して守り続ける。アリシアの魔法をも自動で取り込み、防御に転化していた。

「ふざけるな……! そんな理不尽な力が許されるはずがない!」

 リヴァルスの焦りが見えた。その隙を、僕は逃さなかった。

「動かないことで、勝つんだよ!」

 《怠惰スキル》は、最高の守りをもたらすだけでなく、相手を消耗させる効果があった。リヴァルスは攻撃を仕掛け続けることで、徐々に体力と魔力を削られている。

「バカな……こんな、怠け者に……!」

 リヴァルスの闇のオーラが揺らぎ、弱まっていく。

「今だ、アリシア!」

「はい!」

 アリシアが渾身の光の矢を放った。それは闇の隙間を縫うように進み、リヴァルスの胸に突き刺さった。

「がぁぁぁぁっ!!」

 リヴァルスは絶叫し、闇のオーラが一気に崩れ落ちる。

「この俺が……怠惰に、敗れるだと……!?」

 その言葉を最後に、リヴァルスの身体は闇に溶けるように消えていった。

 戦いが終わり、静寂が訪れた。

「……勝った、のか?」

 僕はその場に座り込み、安堵の息をついた。震えが止まらない。勝ったのは間違いないが、胸に残ったのは重い感情だった。

「ありがとう、太一様……」

 アリシアが涙を浮かべながら微笑んでいた。僕は頷き、空を見上げた。

 だが、この勝利は終わりではない。リヴァルスがいたということは、魔王軍の脅威がさらに迫っているということだ。

「……休みたいのに、また忙しくなりそうだな」

 僕はため息をつきながら、遠くの空を見つめ続けていた。


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