マツケンサンバは魔を払う
「―――召喚に成功した! 聖女様だ!!」
眩しい光に閉じた目を見開くと、そこには見慣れない人々が私を見て騒いでいた。
コミケのコスプレみたいな格好をした、カラフルな髪の毛の人々。
ファンタジー物の映画で見たような石造りの建造物。
ゲーム画面の中でしか見たことない、私を囲む魔法陣。
なぜここにいるのか、理解が全く追いつかない。
私は引っ越したばかりの友達の家に、来週に迫った忘年会の余興の練習に来ていたハズ。
「あの、私は聖女じゃないです。なにかの間違いじゃ……」
「いえ、その金色の衣は正しく予言の聖女様じゃ!!」
私の弁解は、速攻白髭の偉そうなお爺さんに否定される。
いや、この金色の衣装はドンキで買ったコスプレ衣装でしかないけど。
「予言では金色の衣をまとい、魔を寄せ付けない帽子をかぶっておられるとか」
「帽子ってか、余興のちょんまげカツラだけど……。魔を寄せ付けないとかじゃないよ……?」
「予言では魔を払う音色を持った魔術を扱い、人々を幸福にする舞を踊ると言われている。」
「魔を払う音色……? この余興するって言ったらばあちゃんが借してくれたラジカセは持ってるけど……」
私は使い慣れないラジカセを右手に掲げる。ばあちゃんも敬老会の余興で同じ演目をしたらしい。全く、血は争えない。
私が掲げた白のラジカセに何故か人々はどよめき、歓声をあげた。なんか、聖女様っぽい動きだったらしい。
いや、聖女認定しないでほしいんだけど!
歓声を上げる人々の中から、偉そうな王冠を被った人物が、偉そうに出てきた。
その人が片手を上げると、すんと歓声が止む。
たぶん、王様だと思う。
その王様らしき人が咳払いをひとつして、私に命令をした。
「聖女よ、魔王城まで転移し、魔を払うのだ!」
「―――魔王城!? 魔王城ってなに!?」
「さあ、転移陣を構築するのじゃ」
「御意!」
私の意見とかは聞かれないらしい。何?何?と騒ぐ私を無視したまま、白い服の神官みたいな人たちが私の足元に手をかざす。
ファンタジー映画さながらに、湧き出た青白い光の文字が私を包む。
たぶん、このまま、魔王城に配送されるのだろう。なんか抵抗しても無駄な気がする。項垂れて、なりゆきに任せるしか無さそうだ。
「電池式のラジカセだからどんな環境でも音が出るってばあちゃん言ってたけど……魔王城でも使えるかなあ……」
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青白い光が消えて、たぶん配送完了したらしい。
配送先の魔王城らしきところは、確かにおどろおどろしいお化け屋敷の洋館みたいな場所であった。
そしてワインレッドの絨毯の上に、マンガで見たような仰々しい椅子に腰掛けた、想像通りの角が二本生えている魔王がいた。
魔王の真っ赤な瞳が私を捕らえたとき、彼はアニメで聞いたようなエフェクトがかかったような声を上げた。
「……なんだ、お前は?」
まあ、そうだよね。
急に変な金色のコスプレしたニンゲンが来たら、そう言うよね。私が魔王でもそう言うわ。
魔を払うとかよくわからないけど、このまま突っ立ってるわけにも行くまい。やることやって、無理なら無理だったって言うしかない。
私は項垂れたまま、ラジカセを床に置いて再生ボタンを押す。
ラジカセから、陽気な音楽が流れ出す。
「ここで踊れって、命令されたんで。」
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結論から言うと、マツケンサンバⅡは魔王にめっちゃウケた。
私は城に暮らすすべての魔族にダンスを教え、バックダンサーとして完コピ出来るように指導した。ほんの趣味でしかやってないダンスだったが、指導とは自分を成長させる。教えることで私もキレキレに踊れるようになっていた。
魔王は私の持ってきたコスプレ衣装を元に、こちらの素材を使ったさらにギラギラした金ピカ衣装を作った。
その豪華絢爛な衣装に身を包み、ちょんまげをして楽しそうに踊る魔王はちょっと可愛かった。
マツケンサンバⅡを踊るのが楽しすぎたのか、魔王は人間界へ侵攻することをやめた。
―――こうして、世界は平和になった。
おばあちゃん、孫は立派なダンス教師になったよ……!
Xで見かけた「マツケンサンバで除霊が出来る」って呟きと、かまいガチのコンコンダッシュ選手権のとある回を見て書いた。勢いで書きすぎて、後悔している。