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死にいく掲示板  作者: とらすけ


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4話 狂気のBBQ


4話 狂気のBBQ



 とある住宅街の一画で盛大なバーベキューが行われていた。庭一面に4台のコンロが置かれ大量の肉が焼かれ匂いと煙がもくもくと漂っている。その戸建ての住宅の家族を含め、友人たちの家族も集まりお祭りのような賑わいだった。子供たちは奇声を上げ走り回り、大人たちも昼間から酒を飲み大いに盛り上がっていた。一見平和な風景のように見えるのだが……。



 * * *



「なんだ、これ 入れないじゃないか 」


 宅配業者の車が目的の家まで行けず立ち往生していた。住宅街の中の道路が数台の車が停められ通れなくなっていた。確かにこの道路は袋小路になっているが、この奥の住宅の人も買い物等で車を使うだろうし、このように配達で訪れる人間もいるのにも関わらず、まるで自分の庭のように車が停められていた。仕方なく業者は車を降り荷物を持つと歩き出した。停まっている車の横の家でバーベキューをやっているらしく、賑やかな声と子供の奇声が聞こえる。


「こんなとこに車停めるなよ 」


 チッと舌打ちしながら業者は停まっている車の横を抜け、奥の家へ荷物を届けに行った。



 * * *



「お祖父さん、大丈夫ですか? 」


 病気を患いベッドで寝ている祖父に洋子は声をかけた。隣の家で朝から集まってバーベキューをやっているらしく、大声や奇声、煙が住居に侵入してきていた。少しでも、その侵入を防ごうと雨戸まで閉めているが、効果はあまりなかった。隣の家では毎週土日になると集まってバーベキューをやっている。もうそれが恒例らしく、病気で寝ている祖父を持つ洋子は週末が憂鬱だった。何回か、もう少し静かにしてくれませんかとお願いに行った事があるが、自分の家で何をしようが勝手だろうと聞いてもらえなかった。一度、思い余って警察にいった事もあるが、その時だけは謝り、警察が居なくなるとまた騒ぎ出すという始末で手におえないものだった。それから、嫌がらせなのか洋子の家の前に車が停められ洋子は車が出せなくなっていた。車を出すために隣の家にお願いに行くのが耐えられなかった。洋子はもう隣の家の家族の顔を見るのも嫌だったのだ。



 * * *



「また、今日も集まっているね 達也、勉強大丈夫? 」


 ちょうど二階から降りてきた息子に声をかけた純子だが、その顔は苦々しげに歪んでいた。


「大丈夫だよ、母さん あんな奴ら、もう相手にする事ないよ 僕が勉強して偉くなって、あんな奴らこの世のから一掃してやるよ 」


 達也も怒りに満ちた顔で拳を握りしめた。あまりにもうるさいので、達也も隣の家にお願いに行った事があったが、けんもほろろに追い返された。


「自分の家で何をしようと勝手だろう 子供の声が煩いって、お前だって少し前は子供だろう ガキの頃、騒いでなかったのか あーあ、子育てしにくい世の中になったもんだ 」


「子供の声が煩いって、あんた人としておかしいわよ 一度、頭診てもらったら それに、そんなにうるさいなら図書館にでも行って勉強すればいいじゃない そんな事考える頭もないの うちの子と違って、あんたの将来は先がないわね 」


 玄関に出てきた隣の夫婦は、あははと大声で笑った。達也だって子供が騒ぐのが全て駄目などとは言っていない。たまに家族でバーベキューやるくらいなら、我慢する。しかし、それが毎週となると我慢の限界を越えてくる。しかも家族だけでなく友人家族も呼んで騒いでいる。それに、あの子供の奇声だ。まるで断末魔の悲鳴のような異様な叫び声。何であんな声を出すのか理解出来なかった。少なくとも達也は、そんな声を出した事もなかったし、達也の友人たちもそんな声を出す者は一人もいなかった。


・・・どうして庭でやるんだよ どこかレジャー施設でやれば良いじゃないか ・・・


 そう思ったが、どうせ何を言っても無駄だろうと諦めてしまった。



 * * *



 清水明日香は赤い軽自動車をコインパーキングに停めると荷物を持って歩き出した。住宅街の叔母の家には一台分の駐車場しかないので、ここに車を停めて歩いて行くのだ。歩いて5分程の距離なので、それほど大変という訳ではない。従兄弟が受験なので、その陣中見舞いに来たのだが、目指す叔母の家の前には車が何台も停まり大騒ぎしている声が聞こえてくる。明日香がチラリと隣の家を見ると、どうやら庭でバーベキューをやっているらしい。


・・・ふうん、あんなに大騒ぎして、周りの迷惑とか考えないのかな ・・・


 明日香は伯母の家のインターホンを押し、久しぶりに再開した従兄弟の顔を見るとやつれたように見えた。


「達也、あんた顔色悪いよ 勉強し過ぎなんじゃないの ほら、ドーナツ買ってきたから 疲れた時には甘いものが一番 」


 明日香がからかい気味に言うが、達也は怒りに満ちた声で言う。


「隣の家がうるさくて勉強に集中出来ないんだよ 昼間は図書館に行ってるけど5時で閉館してしまうから…… あいつら夜遅くまで平気で騒いでいるし 僕も母さんもお願いに行ったけど、隣の夫婦は自分たちの事しか考えていないんだ それでもお願いすると、子供のやる事に目くじらを立てるなんて、チルドレンファーストを知らないのかと言ってくるし、あいつらこそチルドレンファーストの意味が分かっていない 子供に好き勝手させるのがチルドレンファーストじゃない 僕は絶対偉くなってやる そして、あんな馬鹿親を一掃するんだ 」


 明日香は達也のこんなに興奮した姿を見たのは初めてだった。明日香が驚いた顔をしていると、達也もハッと気が付いたようで明日香に頭を下げる。


「ごめん 明日香にこんな事言っても仕方ないのに…… 」


 達也は急に元気が失くなるが、明日香は達也を元気付ける。


「ううん 気にしないで それにしても間違いなく害毒だね 詳しく聞かせてよ 」


 明日香は達也に隣の家の状況を詳しく聞き出した。



 * * *



 晃は朝からバーベキューの準備をしていると友人たちが集まってきた。さっそく、友人たちが持ってきたクーラーボックスに入れたブロック肉がコンロで焼かれ始める。


「よーし、今日も肉がたくさんあるし楽しくやろう 」


 晃の言葉に、オーッと歓声が上がる。4台のコンロで肉や野菜が焼かれ、もくもくと煙や匂いが周囲に広がっていった。ビールも開けられ朝から全員がいい気持ちになっていた。


ピンポーン


 呼び鈴が鳴り晃はインターホンのモニターを見るがそこには何も映っていなかった。


・・・いたずらか 今度やりやがったら、ぶっ飛ばしてやる ・・・


 晃はそう思いながら缶ビールをグイッと飲み干した。


ピンポーン


 また呼び鈴が鳴るがモニターには何も映っていない。カッときた晃は玄関でビールを飲みながら、次に呼び鈴が鳴ったらすぐに飛び出せるように待機していた。


ピンポーン


 晃は玄関のドアを開け飛び出すと門柱の前に黒いフードを被った妙に痩せた人物が立っていた。


「何度も鳴らして何か用ですか 」


 怒気を含んだ声で晃が言うが、その黒いフードの人物は慌てる様子もなくうつむいたまま、病人がいてうるさくて眠れないというのでもう少し静かにしてくれと言う。


「はあ、これくらいで眠れないなら入院させた方がいいんじゃない 」


「せめて、あの子供の絶叫と煙を何とかして頂けませんか 」


「あんたもチルドレンファーストを知らないのか 子供が最優先なんだよ それに煙が入るのは安普請のせいだろう 二重サッシにしろよ 」


「あなた方が周囲に気を配ってくれれば、それで済むと思いますが 」


「馬鹿か、あんた 困ってんなら、そっちで対策しろよ 」


「では、自分たちは行動を改めないと 」


「当たり前だろう 何で俺たちが…… 」


 ここでうつ向いていた人物が顔を上げる。フードの中の顔は人の顔ではなく骸骨だった。窪んだ眼窩の奥で赤い光が輝いている。


「いやあ、今回は人数が多いので慎重になりましたが、私はこういう案件を待っていたのですよ 非常に嬉しい 」


「な、なんだよ あんた 」


 目の前にいるそれは人間ではない。それは瞬時に理解出来た。だからカメラに映らなかったのかと晃は思ったが、もうすでに全てが手遅れだった。辺りを見回すと空は赤く燃え黒い岩山のシルエットが周囲を囲んでいる。


「そうですね あなたたち人間のいう”死に神”ですよ 」


 フードを被った骸骨はケラケラと笑う。晃は言葉もなく震えていた。


「チルドレンファーストですか それなら、あなたの子供を最優先に拷問して差し上げましょう あなたは一番最後にしましょうか お仲間が一人死ぬ度にあなたの内臓を抜いていきましょうか そして、最後に一番苦しい方法で殺してあげましょう 」


「やめて 許してくれ 代わりに隣の家の爺さんでどうだ 俺だけ助けてくれれば、他の奴はいいから 」


 晃はすがり付くように懇願するが、死神は冷たく振り払う。


「あなたは周囲の人間から懇願された事を聞いてあげた事がありますか あなたはそれだけ恨まれているのです よかったですね 」


 その時、異変に気付いた他の者も騒ぎ始めていた。


「パパァ 変だよ、ここ 」


 晃の子供の声が聞こえるが、晃はそれどころではなかった。


「いやあ、あなたのおかげでこんなに大勢の人間を地獄に連れてくる事が出来ました 感謝致します 」


 死神は高らかに笑うとその姿が消えていった。代わりに地獄の亡者がゾロゾロと集まってきていた。



 * * *



「お久しぶりです、宮部さん その節はお世話になりました 」


「こちらこそ しっかり物を言える方と思いましたが、警察の方だったのですね 」


 宮部と九条は応接室のソファーに座り向き合っていた。美幸と一緒にきた男は抜け目ない目で宮部の様子を立ったまま観察している。何かあればすぐに動けるような油断のない顔をしていた。


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