第9話 蘇生スキル
異世界では回復や治癒の力はあっても蘇生の力は存在していなかった。
だから死者蘇生なんて禁忌は一度たりとも成功していないとのこと。
成功していないだけで行われていない訳ではないというのが悲しいところではあるが。
だがその常識はこちらでは当てはまらないらしい。
(蘇生スキルは習得するのに1000億Pか。普通ならまず無理だけど方法によっては不可能じゃないのが最悪だな)
あれから惨劇の起こった大学を脱出するために移動した際に四体のオークとそれによって生まれた大量のグールと遭遇した。
そのどれも退けること自体は簡単だったが、問題はそこではない。
その過程で倒したグールから手に入れた各々の個人名が記入された御霊石はどれも10000Pで売却できるようなのだ。
つまり単純計算をするなら1000万体のグールを討伐すれば蘇生スキルが手に入ることになる。
場合によってはこの御霊石も売ることを考えていた俺だったが今はそれを保留にしている。
あくまで一つの可能性の話だが蘇生スキルを使用するのにこの御霊石とやらが必要なことも考えられたからだ。
それを考えると御霊石さえあれば多くの人を蘇生することができるかもしれない。
だが一度ショップに売り払った物を買い戻すことはできないようだ。
(ポイント欲しさに売り払って後悔しても遅いってことだからな。まあ今はポイントに困って居る訳でもないから保留だ保留)
こんな大それたことを一人で決断できる訳がない。後で美夜にでも連絡して一緒に頭を悩ませてもらうことにしよう。
幸いなことにグールは死んだことによって肉体のリミッターが外れたのか多少力が強くなっているなどの特徴はあるが理性は全くない。
そして人の気配を感じたら何も考えずに接近してきてくれる。
だから急遽方針転換して避難所に行く前に大学内を巡って大量の御霊石をインベントリに保管するのもそれほど難しいことではなかった。
まあ漏らしている個体もあるかもしれないが見つからなかった以上は致し方がない。
(流石にこれ以上は由里達も限界だろうしな)
由里達には移動のためにポイントを消費して買った頑丈そうな装甲車の中で待っていて貰っている。
これなら扉を開けない限りグールは問題ないしオークでもそう簡単には突破できない。勿論突破どころか接近も許しはしなかったが。
生きている人間が複数存在している装甲車にうじゃうじゃと群がろうとするグールの群れ。
それはまるで甘い蜜に集る虫の集団のようだった。
それはつまりそれだけの人がこの場でオークの被害にあったということでもある。
仇は取ってあげたがそれで彼らが救われはしないのがなんともやるせない話だ。
「お待たせ。それじゃあ避難所に行こうか」
「……ねえ、お兄ちゃん。いい加減、どういうことか説明してよ」
御霊石の件を片付ける方を優先したこともあってあれから説明とか何もしていないので痺れを切らしたようだ。
助手席に座っている横の由里がそう聞いてきた。
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