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第79話 サハギンダンジョンと新たな奉納者

 今回のダンジョンはどこにでもあるような民家だった。


 どうやら有名な建造物がダンジョンとして選ばれるってことでもないようである。


(まあどんな建物であれ場所が分かれば何でもいいか)


 あるいはこうやって見分けのつかない建物をダンジョンとするのも敵の作戦の一つなのかもしれない。


 俺だって奉納者というジョブの効果がなければ、こういう目立たない建物がダンジョンだと見分けるのは難しかったことだろうし。


 発見したダンジョンの入り口には門番のサハギンナイトが存在しており、運の良いことにそいつが鍵を持っていた。


 だから俺達三人と一匹はサクッとそいつらを処分するとすぐにダンジョンへと潜る。


 そうして入ったサハギンダンジョンの中の様子だが、綺麗な海と白い砂浜が広がるそこだけ見ればどこかのリゾート地ではないかと思うような場所だった。


 もっともその綺麗な海からは続々と半魚人の魔物であるサハギンが侵入者を排除するべく現れて陸地へと進軍してくるのだが。


「見える景色は広大なのに反して、進める範囲はそれほど広くないな。どの方向に進んでも途中で見えない結界に阻まれるみたいだし」

「クーちゃんでも壊せない結界ってことは、たぶんダンジョンの範囲そのものがそこで終わってるんだと思うよ」


 もしかしたら成竜化したクーが全力を出せばその結界も破壊できるかもしれないが、下手にそれを強行するとダンジョン自体が崩壊する恐れがあった。


 その行動はそれこそ建造物の重要な柱を圧し折るようなものなので。


 そうなった際、中に居る俺達が無事でいられるか分からないのでそんな無茶をする気はなかった。


 他に方法がないのならともかくボスを倒すというリスクの少ない正攻法があるのだから。


 だから俺達はまず陸地の範囲に脱出ポイントがないかを探しながら、それと並行して続々と陸へと上がってくるサハギンの群れを迎撃する。


 現れる数的にそれを放置していると俺達が行動できる陸地の範囲がどんどんサハギンによって埋め尽くされてしまいそうなので。


 そうしてまるで砂浜という陸地でタワーディフェンスをするかのようにすることしばらく、無事にそれを発見した。


「お、これじゃない?」

「ああ、脱出ポイントだな」


 見つけた脱出ポイントは当然ながらまだ起動されていないので、早速魔力を流し込むことにする。


 別に脱出するつもりはないのでそういう意味では起動させなくても良いのだが、茜や叶恵にも奉納者のジョブを手に入れてもらうためには必要なことだった。


(こういう魔法陣に奉納をすることで奉納者のジョブが手に入るはずだからな)


 俺が二人に譲渡している魔力をそのまま魔法陣に奉納してもらう形だ。


 こうすれば俺でなく二人が奉納している形になるし、魔石や御霊石を無駄に使わなくても済む。


 その思惑通り何も問題は起こらず二人は奉納者のジョブを手に入れることに成功していた。


「本当にズルよね、英雄様の能力は。この脱出ポイントやらだって普通は起動するのにもっと苦労するはずだもの」


 確かに俺のように無限にMPを奉納できるのでなければ、脱出ポイントやダンジョンを消滅させる魔法陣を起動させるのはかなり苦労するだろう。


 HPやMPを奉納し過ぎれば、その後の戦いに問題が出るかもしれない。


 敵性ダンジョンは魔物という敵が襲って来るので、奉納するとしても聖樹と違って安全にはとはいかないのだから。


 かと言って御霊石や魔石を代用するとして、それらはスキルなどを手に入れるのに必要だ。


 だからここでそれを使ってしまうと他で支障をきたす可能性が否めないのである。


「あるいは私達のような存在がダンジョンに侵入して、こうやって好き勝手やっても魔族がすぐに現れないのは英雄様が色々と迅速過ぎるからなのかもしれないかもね」

「え、どういうこと?」


 茜が首を傾げて尋ねると叶恵は分かり易いように説明する。


「これまで聞いた話と総合すると、魔物の現れ方とかが基本的にはボスへ到達するのを阻害する感じがするでしょう? あるいはボスが中々出てこないとか、とにかくこちらがダンジョン攻略するのを遅らせる意図があるのはほぼ間違いない」


 確かにオークダンジョンも最奥にボスが待ち構えていたし、ゴブリンダンジョンでも雑魚を相当数狩ったり脱出ポイントを複数起動したりすることでようやく姿を現したものだ。


 グラスウルフダンジョンでも大量の雑魚にボスが紛れていたっけ。あれも全体攻撃がなければ見つけるまでかなりの時間が必要となったことだろう。


 そしてこのサハギンダンジョンでも今のところ陸地にボスが現れる気配はないし、だとすれば海の中で隠れていると思われた。


「恐らく魔族はダンジョンにこちらの進軍を遅延させる様々な仕掛けを施している。と言うかそもそもそういう意図でダンジョンは設計しているのかもしれないわね」

「ダンジョンは邪神陣営にとっても重要な拠点みたいだからな。人類陣営にそう簡単に攻略させないようにはしてるだろうよ。それにMPが中々回復しない仕様も攻略が遅れる原因になる訳だ」


 MPが切れれば使えるスキルが限られる。

 それはつまり戦力が軒並み低下するということ。


 その状態で大量の魔物と戦うのは自殺行為に他ならないだろう。


 あの美夜だってそれが原因で命を落とすことになったのだから。


「門番から手に入れたダンジョンに入るための鍵が一日で消えるのもそう。たぶんだけど零時になったら鍵の効果が切れて中の侵入者をダンジョン外に放り出すようになってるとかだと思うわ。つまり敵からすればダンジョンは陥落されるとしても、それには何日も掛けられるという想定なのよ」

「だけど譲兄はユニークスキルのおかげであっという間にダンジョンを攻略できる。それが魔族にとっては予想外で対応が間に合ってないってこと?」


 茜が辿り着いた結論に叶恵は満足そうに頷いている。


「あるいはダンジョンを世界中に大量に展開している弊害もあるのかもしれないわね。魔族もバカじゃないから、その内の幾つかが攻め込まれるのは想定しているはず。だからダンジョンの仕掛けなどで進行を遅延させて対応するための時間を稼ごうとしているのに、それを嘲笑うような速度で英雄様が攻略してくるせいで手が回らない、とかね」

「確かに少なくとも魔族の数が十分ではないのは前に倒した魔族の情報からも間違いないからな。敵の手が回ってない可能性はあり得そうだ」


 でなければ俺のような危険人物をもっと狙い撃ちしてきそうなものだし。


 少なくとも俺が魔族の立場なら絶対に何らかの手を打つ。


「勿論これらはあくまで推測だけど、その辺りの裏を取るのは先生様に任せればいいでしょ。これが的外れな推論でなければ少ない対価で確証も得られるんでしょう?」

「ああ、そうだな」


 ここまでの会話で分かったと思うが叶恵はかなり賢い。


 本人は難しいことを考えるのは好きじゃないと言っているが、向き不向きで言えば間違いなく向いているのである。


 なにせこれまでの会話は雑魚のサハギンを狩りながら行われているのだから。


 いくらサハギン程度なら楽勝とは言え、戦いながらそういう思考まで巡らせられる奴は中々いないものであるし。


「で、これらのことから迅速にダンジョンを攻略した方が良いってことになるんだけど、現状だと湧き出てくる雑魚を狩るだけでボスが出てくる気配はなし。攻略開始した時間が遅かったからこのままだと零時を回る可能性があるけど、出来ればそれは避けたいってことで一つ作戦を提案するわ」


 そう言った叶恵は茜とクーを見るとニッコリを微笑んだ。


「悪いんだけど、二人の全力で雑魚ごと海を薙ぎ払ってくれない?」

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