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第139話 いざアメリカへ

 アメリカによって用意されたプライベートジェットは非常に豪華なものだった。


 既に日本を離陸してから一時間ほど経過しており、招かれた俺と叶恵はそのフカフカな座席で腰を休めさせてもらっている。


 アメリカまではまだまだ時間が掛かるそうだし、到着したらまたダンジョン攻略に精を出さなければならないのだ。


 それを考えれば休める内に休んでおくのが賢明というものだろう。


「お飲み物はいかがでしょうか? ご要望であればアルコールなどもご用意できますが」


 イヤホン越しでも声が聞こえてきたので俺は失礼にならないように対応する。


「いえ、俺は大丈夫です」

「私は折角だし高いお酒でも貰おっと。こんな場所で高級酒を飲むのなんて、きっと二度とない機会だもの」


 煙草と違って酒はそれほど好きではないはずの叶恵だったが、そう言いながら案内役の男性にお勧めの一杯を選んで貰っている。


 その歓待を受ける様子だけを見れば、それこそVIPのようであった。


(随分と力が入っているよな)


 プライベートジェットを用意しているだけでない。


 わざわざ世話係まで完備させて丁重にもてなしている辺りからして、アメリカが相当なまでに俺達の協力を欲しているのは間違いなさそうだった。


 なにせ出発までの三日間という短い期間ですら、色々な形での御機嫌取りみたいなものがあったのだ。


 莫大な報酬の約束で俺達を引き抜こうとしたことに始まり、見目麗しい美女を寄こすなど、本当に色々な手段を講じてきたものである。


 ただ生憎と俺は金に目が眩んだり、色仕掛けに引っ掛かったりするほどアホではない。 


 なので、そのどれも丁重にお断りさせていただくだけだったが。


「英雄様も楽しめばいいのに。どうせアメリカに着いたら魔物の殲滅とダンジョン攻略に明け暮れる日々が続くんだから、今の内に英気を養っておいて損はないわよ?」

「生憎とこうして体を休めているのが俺の英気の養い方なんだよ」

「妙なところで堅物なのは変わらないわねー。その気になればハーレムだって作り放題だろうし、そうじゃなくても少しは楽しんだって誰も怒ったりしないでしょうに」


 この言い草だと、どうやら俺がハニートラップめいた仕掛けを断固として拒否したことも把握しているようだ。


 まあここ数日はあからさまに仕掛けられていたので、その辺りの事も知ろうと思えば簡単に知れることではあるのだろう。


「うるせえ、黙ってろ」


 その上で俺の解答はこれだった。


 俺だって人間だ。性欲がないとは言わないし、ましてや清廉潔白を気取っている訳でもない。


 ただ俺を愛して死んでいった美夜の事を考えると、今はそういうことをする気にはなれないだけだ。


(なにより罠と分かった上で引っ掛かるなんてバカな真似は御免だっての)


 それにそんなことよりも今はやっておくべきことがある。


 それは英語を話せるようになるということだ。そのために今もこうしてイヤホンで英会話の音声を流し続けているのだから。


「それで本当にそんなので話せるようになるの?」

「上昇したINTがあれば最低限くらい話せるようにはなるはず。この三日間でもそれなりに会話は聞き取れるようになったくらいだからな」


 これまで英語などまるで話せないどころか、大学の時などの筆記テストでも苦手としていたのだ。


 それこそ一生日本から出ないから英語なんて覚えなくて構わないと言い張っていたくらいである。


(それなのに異世界なんていう、国どころか世界を跨いでの移動をすることになったんだから笑うしかねえよな)


 更にそこから五年もの歳月を異世界で過ごしてきたことにより、戦いや生き残る知識ばかりが蓄積されていった。


 そしてそれに比例するかのように、それまでに溜め込んでいた僅かな英語などの勉学関連の知識は薄れてしまったのが正直なところである。


 そんな英語の知識が風前の灯状態の俺だったが、強化されたINTによって脳が強化されているおかげか、全く分からないはずの英語を聞いているだけで、段々と意味が分かるようになってきているのである。


「てか、お前はなんで最初から英語が分かるどころか話せるんだよ」

「だって私は元々三ヶ国語を話せたもの。日本語と英語とドイツ語を大学で勉強してたから」

「それ、せこくね?」

「何がせこいよ。そっちがちゃんと勉強してこなかったのが悪いんでしょう?」


 全くもってその通りなのだが、まさかこの叶恵にそんなまともな指摘をされる日が来ようとは思いもしなかった。


 そう、意外や意外。


 なんとこの叶恵をいう女は非常に学のある人間としての人生を送ってきたようなのである。


 もしくは異世界に送り込まれる前は叶恵の性格もこんな感じではなかったのだろうか。


(いや、異世界の初めの頃からヤニカスではあったな。だとすると本質的な中身は変わってないとみた)


「何よ、その目は」

「いや、別に」


 そんなある意味では他愛のない会話をしている最中も俺達を乗せたプライベートジェットは空を飛んでいく。


 このままいけば予定通りにアメリカの西海岸に到着するはずだ。


(今のところ空や海に魔物が発生したっていう情報はないからな)


 恐らくは海や空に魔族側もダンジョンを発生させてはいないのだろう。


 御霊石を回収することを考えれば人の多い都市部やその近郊を狙うのが理に適っているし。


 それもあって空中で魔物が襲ってくる可能性も無いと思われる。


(俺達の動向を把握していた場合、排除するために進行方向にダンジョンを展開させることもあり得なくはない。あり得なくはないが、どうやって正確な居場所を特定するのかとかを考えると、まずないだろうな)


 それに高速で飛行しているプライベートジェットに追いつける魔物となれば、相当高度な飛行能力を持った魔物でなければならないはず。


 ゴブリンやオークなどの数が多い分、一体一体の力が高くない魔物しか展開できていない現状から見て、そんな強力な魔物をピンポイントで発生させられるとは思えなかった。


(それにいざとなった時は転移で叶恵だけを連れて逃げるだけだしな)


 インベントリには転移マーカーを付けた大量の石や紙を用意してあり、実はそれを定期的にプライベートジェットの外に出すことで、即席の転移ポイントを残してあるのだった。


 これは沖縄のダンジョン攻略によってインベントリのスキルレベルが上がったことの影響である。


 インベントリから物を取り出せる、または収納できる範囲が広がっており、更に薄い壁程度なら問題ない形となっているのだ。


 それもあって密閉されているプライベートジェット内から外へ、それらを撒くことが可能となっている訳である。


『でもこのやり方だと定期的に撒く必要があるからそっちが寝られないじゃない。寝ずの番なんて疲れるだけだし、適当なところで代わるからその時は言いなさいよ』

『悪い、助かる』


 叶恵もインベントリのスキルは持っているし、何か起こった時のために転移マーカーを付けた物は預けているのでそれを使えば同じことは可能だった。


 もっともそんな心配は杞憂でしかなかったらしく、俺と叶恵はそのまま予定通りアメリカへと到着することに成功するのだった。

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