第13話 決意
どうやら廃棄された病院の一室にあいつはいるようだ。
「……ここだな」
扉越しに声を掛けてみるが返事はない。
分かってはいた。誰よりも人を治してきたあいつが間に合わないと判断した以上はそこに疑いを挟む余地なんてないことに。
それでも心の片隅にある信じたくないという気持ちも捨てられなかった。
だが甘い希望が叶うことは決してあり得ないと分かっている。
部屋の中から聞こえる鳴き声をあいつの声だなんて思いたくない。
だけどここで立ち止まっていても何も変わらないのもまた事実。
だから俺はその手で扉を開く。
そしてそこには美夜だった存在が立っていた。
その傍らには美夜がいつも持っていたバッグが転がっている。
だがその口で俺の名前を呼ぶことは決してない。
「すぐに楽にしてやるからな」
あいつの望みを叶えるためにも俺は素早く、けれど可能な限り優しくその身体に刀を突き立てた。
グールとなって戦闘経験の全てを失っている元聖女は、あっさりとその刃に胸を貫かれて身に着けていた衣服ごと肉体が消滅する。
どうやらグールは衣服など身に着けているものも肉体の一部扱いなのか、討伐した際には肉体と一緒に消えてしまうのだ。
だからその場に残されたのは傍らにあったバッグとその中身を除けば御霊石だけだ。
聖 美夜という俺を愛していると言ってくれた女性の名前が刻まれた。
それを見て俺は決意する。
「ああ、そうだ。ここには蘇生スキルがある」
それがどういう代物なのかは現状では全く分からないし、手に入れるためには膨大なポイントが必要になる。
だけどそれでも僅かな可能性があるのならそれに賭けることに躊躇いはなかった。
(あんな恥ずかしい最期の言葉で終わらせてやるものか。必ず生き返らせて人の心にトラウマを与えようとした文句を言ってやる)
そう思いながらも視界が滲むのが止められなかった。
俺達は平穏を求めたからこそ元の世界に戻って来た。
美夜に至っては邪神を撃退するという前人未到の偉業を成し遂げた上で。
それなのに与えられた平和な時は決して長くはなかった。
違和感があるとか散々文句を付けていたが、それでもその平穏の時間が今度こそは続くと信じて願っていたのに。
あまりにひどい話ではないか。
俺や美夜が何をしたというのか。
「ああ、くそ。やっぱり仲間を失うのはキツイな」
今だけは悲しみに身を任せよう。
そしてそれが一段落したら動き出そう。
俺達が望んでいた平和を、そして失った彼女を取り戻すために。
俺以外に生存者がいない病院で誰にも知られずに俺は手向けの涙を流すのだった。
これがあくまで一時の別れとなることを願いながら。
これにて第1章本編は終了です。いかがだったでしょうか?
次は過去の話を1話だけ挟んでから第2章となります。
第2章では他の勇者パーティメンバーも登場して、魔物との戦いが加速する予定ですのでお楽しみに!
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