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第111話 幕間 空を舞う戦乙女とそれを見た自衛官 中編

 まるで名も知らぬ彼女が動き出すのを待っていたかのように、敵の攻撃は彼女へと集中した。


 周囲の至る所から発射されたのは火の球だけでなく、氷や雷の球など別種類の魔法も存在しているのが見て取れる。


 それらの攻撃対象は名も知れぬ彼女だ。


 だからこちらに降ってくるのは狙いを外した余波となるだろうが、それだけでも我々にとって脅威となるのは明らか。


 とすればその本命である攻撃が殺到している彼女に迫る危険は我々の比ではない。


 そのはずなのに、彼女はそれに動ずる様子を欠片も見せなかった。


 それどこか自分に迫るそれらの攻撃に視線すら向けないどころか、まるで興味がない様子を崩さない。


 なにせ近くに迫るそれらの攻撃を無視して、別の何かを探すように周囲を見回しているくらいなのだから。


 だが次の瞬間には、その余裕が伊達ではないことが証明される。


 なにせ彼女に殺到していたはずの数々の魔法攻撃は、何が起こったのか分からないまま一つの例外もなく消え去ったのだ。


 それはまるで先程の光景の焼き増しのようですらあった。


 だとするとやはり彼女が敵の攻撃から我々を守ってくれたのは間違いないだろう。


(覚醒者なのは間違いないだろうが、それにしたってここまでの実力者がいるなんて聞いたことがないぞ……)


 自衛隊の中でも精鋭と呼ばれる部隊、その中でも最強とされる人物を自分は知っている。


 またそれ以外でも、沖縄で最初に魔物を倒したとされる米兵の情報もそれなりに得ていた。


 彼らは初回討伐特典とやらで多くのポイントを得ていることもあって、他よりも多くのスキルを手に入れているそうだ。


 だが目の前の彼女のそれは、そんな自分の知る強者達ですら届かないような遥か高みにあるとしか思えない。


 少なくとも自分が知っているような覚醒者の強者が集まっても、あれだけの攻撃を無傷どころか一瞬で無効化できるとは思えないのである。


(それにこの銃もおかしい。一発で頑丈なガーゴイルを仕留められるだけでも凄いのに、弾切れしないなんて。しかもそれをどれだけ自分の実力に自信があれば、そんな強力な武器をこんな簡単に貸し出せるんだ?)


 これだけの武器だ。普通なら自分で使うだろう。


 少なくとも自分なら、こんな強力な武器を手放すことを躊躇する。


 だってその分だけ自分の命の危険が増えるのだから。


 だが逆に言えば、その武器をこうして簡単に手放せる彼女の実力は我々と比較にならないということか。


 それ以外でも何故そんな貴重な武器を、部隊の中でもそこまでの実力者ではない自分に預けたのかなど謎は多くある。


 だが今はそれを気にしている暇はなかったので、とにかく近付いていきそうな敵に狙いを定めて仕留めるのを繰り返した。


 そうしてどうにか周囲の魔物を一掃出来たところで、ようやく怪我をしている隊員や民間人の治療を行なう余裕が生まれる。


 未だに壊れた車両の修理は進まないようだが、回復スキルが使える隊員によってどうにか重傷者の数を減らせれば、この窮地からでも立て直せるかもしれない。


 そう自分以外の多くの隊員が考えたことだろう。


 もっともすぐにその必要もないのを思い知らされることになるのだが。


「おいおい……なんだよ、あれ」


 隊員の誰かが呟いた小声が聞こえてきたが、それには大いに同意するしかなかった。


 多くの隊員が視線を向ける先で、空を舞う、そう表現するしかない形で一人の女性がその手に持つ槍を振るっているのだ。


 何もないはずの空中に足場があるかのように、あるいはその背に見えない翼があるかのように、縦横無尽に空を舞うように移動している。


 かと思えば、その姿が掻き消えたと瞬間に別の場所に移動しているなんてことも起こっていた。


 そしてどの場面でも共通しているのが、彼女が存在した地点の近くにいたガーゴイルは一体の例外もなく、バラバラになって消滅していくことだ。


 存在したことの証明である魔石だけを残して。


 辛うじて槍を振るっている瞬間が視認できる時もあるので、恐らくはその類い稀なる槍捌きで頑丈なガーゴイルの肉体を破壊しているのだろう。


 その腕前だけでも驚嘆に値するというのに、しかも彼女はどういう訳か、遠距離からの攻撃が全く効かないようなのだ。


 正確には幾度も放たれる敵の魔法が、仲間諸共仕留めるつもりの容赦ない攻撃だとしても関係ないと言わんばかりに、全て彼女に辿り着く前に消滅している。


 それはまるで一定の範囲内にある魔法を無力化するスキルでも有しているかのように。


(そんな強力なスキルがショップにあったか? いや、仮にあったとしてもそれを手に入れるためにはいったいどれだけのポイントが必要になるやら……)


 だとすると彼女は魔石だけでなく御霊石を売却してポイントにしているのだろうか。


 そうでもしなければ手に入れられないような強さに思えるのだが。


 そんなこんなで最後の方は態勢を立て直した我々も彼女を援護する形で魔物の討伐に協力したが、それはあくまでおまけでしかない。なにせガーゴイルの大半は彼女一人によって討伐されたので。


「これでこの辺りの《《ガーゴイルは》》始末したし、しばらくは安全でしょ」

「ご、ご協力感謝致します。あなたがいなければ民間人は疎か、我々も生きて戻れなかったでしょう。それで、その……あなたはいったい何者なのでしょうか?」


 部隊長が緊張した様子で彼女にその正体を尋ねている。


 助けられたことに恩は感じていても、これだけの力を有している相手だ。


 その気になれば我々全員を皆殺しにすることも可能だろう事を考えると、隊を率いる身としては完全に警戒を解くという訳にもいかないらしい。


(わざわざこんな危険地帯に救助しにやってくる人物が、巷で聞くような無法な覚醒者とは思えないが……)


 そんなこちらの心配など気付いていないか、あるいは興味もないのか、彼女は部隊長に視線を向けることも無く背を向ける。


「その話は合流ポイントに辿り着いてからで。合流ポイントと違ってここは安全な場所とは言い難いようだし、怪我人の治療を行なうためにも移動した方が賢明でしょう?」

「……確かに、それもそうですね」


 回復スキルによって状態が改善した者もいるが、それは全員ではない。


 少ないMPでは全員を回復させることなど不可能だったからだ。


 だからこそ彼女は、何よりも先に魔力回復薬が使用可能な合流地点へ向かうべきだと提案しているのだろう。


 そこに辿り着ければ回復したMPで多くの怪我人を治療可能だからと。


 その言葉で私は彼女が悪人ではないと信じられた。


 だって彼女が我々を殺して御霊石を手に入れるつもりなら、まずそんな場所に連れて行こうとする訳がないのだから。


 それこそこの場で皆殺しにして、なるべく早くグール化させるはず。


 だから私は、強力な武器を貸してくれたことを含めてお礼を言おうと口を開こうとして、


「え?」


 気付けば、その背中に向けて借り受けた強力な銃の一撃を放っていた。

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