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第110話 幕間 空を舞う戦乙女とそれを見た自衛官 前編

「撃て! 何としてもこれ以上、敵を接近させるな!」


 部隊長が必死な様子で指示する声が響き渡っている通り、状況は逼迫していた。


 ガーゴイルという不気味な彫刻のような姿をしている生物なのか怪しい魔物が、四方八方から次々と我々に襲い掛かってきているのだ。


 そして今は辛うじて迎撃できているものの、このままでは遠くない内に数の暴力で押し切られるのは目に見えていた。


「おい、壊れた車は修理できそうなのか!?」

「ダメだ! 完全にぶっ壊れちまってて、そう簡単に直るもんじゃないらしい!」

「そんなこと言ったって、このままじゃ押し切られるぞ!」

「救援はまだ来ないのか!?」


 銃声と怒声が飛び交う状況が事態の深刻さを物語っているだろう。


 民間人を乗せて運んでいた一台のトラック。


 そのトラックの後輪付近が魔物の魔法による攻撃によって大破しており、そのせいで身動きできなくなっているのだ。


 合流ポイントを目指して、我々別動隊はここまでどうにか人間を襲う魔物を避けて進めていた。


 だがその幸運もここまでのようで、我々は決断を迫られている。


(くそ、このままでは遠からず全滅だ!)


 今のところ動かせないまでに破壊されたのは民間人を乗せたトラック一台だけであり、それ以外の車両はまだ動く。


 つまりそのトラック以外でなら移動は可能だった。


 だが破壊されたトラック内の民間人を他の車両に移動するのは物量的に無理だし、なにより破壊された際に多くの怪我人が出ているらしい。


 周囲から魔物が襲い掛かってきている状況で、そんな動けない人達を別の車両に運び込むなど不可能だ。


 出来ることがあるとするならば、まだ自力で動ける少人数だけを動ける車両に移動させること。


 それはつまり、その少数以外は見捨てるということだった。


 まともに動けない怪我人を、こんな大量の魔物の中に置いていったら生き残れる訳がない。


 ましてや魔物を食い止めている我々がいなくなれば、それこそあっという間に蹂躙されるのが決まり切っていた。


(だけどそれでもこのまま全滅するよりは……)

「不味いぞ、魔法だ!」


 そんな思考を断ち切るように別の隊員の声が聞こえてくる。


 その声がした方向を見れば、遠く離れた場所にいる一体の他より大きいガーゴイルの足元に、何らかの魔法陣が形成されているではないか。


 そしてそこから放たれるであろう魔法は分かっている。


 なにせ不意打ちでトラックを破壊したのが、どこからか敵が放ってきた火の球による魔法攻撃だったのだから。


 動けないトラックを守るために固まっている状況で、その攻撃を受ければどうなるか。


 それが嫌でも理解できた我々は、どうにかしてその攻撃を妨害するべく銃口をその個体へと向ける。


 だが放たれた幾つもの銃弾は、その間を遮るようにして展開された他のガーゴイルの肉体によって弾かれてしまった。


 それにより妨害できなかった魔法は発動して、大きな火の球が奴の傍に浮かび上がる。それもその数は一つではなく複数も。


「そ、総員、退避! 退避だ!」


 部隊長が叫ぶが間に合う訳もない。


 味方の魔物を巻き込むことなど気にしない形で一斉に空へと打ち上げられたその火の球が、背後に民間人がいることで動けない我々に向かって容赦なく降り注ぐ……はずだった。


「エネルギードレイン」


 だがそこで奇跡が起きる。


 なんと本来なら着弾と同時に強力な爆発と人間一人など簡単に焼き尽くす炎を撒き散らすはずの火の球が、我々に壊滅的な被害を齎すはずの死の刃が、まるで幻だったかのようにその途中で霧散したのだ。


「なにこれ、いくら弱体化したガーゴイルウィザード程度が使う魔法にしたって、込められた魔力が貧弱過ぎ。これじゃあ吸収しても大して魔力が回復しないじゃない。それ以外でも随分と《《面倒なこと》》になってるみたいだし」


 いったい何が、そんな疑問を口にする前に聞き慣れない女性の声が耳に届く。


 その声がした方向を見ると、いつの間にか我々の集団の中に見知らぬ女性がいるではないか。


 服装からして明らかに自衛隊員ではないし、そもそも彼女のような人物は部隊で見たことがない。


 そもそも先ほどまで確実にいなかったはずだし、いったいどこから現れたのだろうか。


「き、君はいったい誰だ」

「私はあなた達の仲間から派遣された救援部隊ですよっと。まあ私一人で部隊って名乗るのも変な感じだけど、そんなのはこの際どうでもいいか。それよりも今はもっと大切なことがあるようだし」


 同じような疑問を持った部隊長の質問にある意味で簡潔に答える女性は、こちらの困惑など気にせずに言葉を続ける。


 その視線は周囲を取り囲む魔物でもなく、かと言って救助対象であるはずの我々にも向けられていなかった。


 強いて言うなら、隊員の何人かの足元を見ているようだ。


 そこには何もないというのに。


「まあいいわ、ともかくまだ気を抜くにはまだ早いわよ。どうやら敵さんもここからが本気のようだしね」

「何だって?」


 救援部隊を名乗る女性の言葉が間違っていなかったことはすぐに証明された。


 何故ならまたしても敵が魔法を発動しようとしているからだ。


 しかも今度は一体だけではないことを、複数の場所で浮き上がる魔法陣が証明している。


 これほどまでに魔法を使える個体がまだまだ控えていたのか。


 だとすると彼女の言う通り、これまでの敵はまるで本気ではなく手を抜いていたということになる。


「……なるほどね。さっきまでは本気を出していなかったと。ってことはまだ生きている人間は、もしかして私達のような存在を誘き寄せる餌として、これまで甚振りながら生かしていたのかしら?」


 そんな気になる発言をしている彼女だったが、部隊長などが投げかけたこちらの質問に関しては答える気がないようだった。


 それどころか一方的にこちらに守りを固めるように通達してくる。


「周辺の敵は私が片付けるからその間、あなた達はここで生き残ることだけを考えていなさい。それと……そこの人」

「わ、私ですか?」

「この特別な武器を貸してあげるから防衛に役立てること。ちなみに弾切れはないから、遠慮なく好きなだけ連射していいわよ」


 そう言いながら無造作に背負っていた銃を敵に向けると、そこから放たれた何かが敵を一瞬で打ち砕いてみせた。


 かなりの距離があったというのに敵を一撃で粉砕するなど、射程も威力も並の銃ではない。


(いや、そもそも放ったのは銃弾じゃないのか?)


 弾切れ以前にそもそも弾を装填する部分も見当たらないし、既存の銃器とは明らかに何か違う。


 だが今はそんな疑問はどうでもいい。


 何だろうと、この絶望的な状況を覆せるのなら利用するだけだ。


「それじゃあ、いってくるわ」


 その言葉とともに彼女は空へと飛びあがり、それとほぼ同時で四方八方から火の球が打ち上げられた。

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