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第11話 避難所での悲劇

 どうにか避難所まで辿り着いた俺達だったが、そこで一安心とはならなかった。


 避難所が魔物によって襲撃されていて壊滅していた……ということではない。

 まあ襲撃自体は現在進行形で行われていると言っていいかもしれないが。


「お兄ちゃん、あれって……」

「まあそうなるだろうな」


 入口の門は閉められていてバリケードも作られているのでグールでは中に入れないから問題はそこではない。


 死んだはずだった人が動いている。

 その事実を見て家族や大切な人が生きていたと思ってしまう人が現れてしまうことだ。


「下がってください! 彼らはもう人間ではないんです!」

「嘘だ! だってああして歩いているじゃないか!」

「離せ! 息子が、息子があそこにいるんだ!」

「彼はもう死んでいます! それに実際に襲われた人も出ているんですよ!」

「だとしてもきっと元に戻る方法はあるはずだ!」

「そうだそうだ! 娘に手を出したらただじゃおかないぞ!」


 入り口付近で聞こえてくる声はグールの危険性を伝えるものとグールを倒させないために抵抗する者たちの言い合いだった。


『あっちでもこういうことは往々にしてあったからな。こういう事態になることは予想してたよ。とは言え残念だけどアンデッドが元に戻ることはない。絶対にな』


 だけどそんな事実を知らない、あるいは認めたくない人達は抵抗を止めないだろう。


 そのせいで自分たちの命すら危険に晒すことになるとしても。その気持ちは少しだけ理解できる。


 俺だって由里を助けるのが間に合わずにグールと化していたのなら同じような気持ちを抱いたはずだ。


 どうにか助けられないかと。異世界では無理だったかもしれないけど、もしかしたらこっちならその方法が見つかるかもしれないと。


 ありもしない希望に縋りたい気持ちはよく分かる。分かりたくなくても嫌というほど思い知って来たのだから。


「ねえ、可哀そうだしこのまま放置するのはダメなの?」

「ダメだ。グールは時間が経つほど強くなって場合によっては上位種に進化する。そうなったら厄介さは今の比じゃない。倒せるうちに倒しておくのが被害を広げない最善策なんだ」


 しかもグールになるのが異世界よりも速いことから考えるに強化も進化も向こうよりも速いと思っておいた方がいいだろう。


 とは言えこれだけの注目を浴びている中に考えなしに飛び込んでグールを消滅させるのは悪手だ。


 事情を知らないグールの家族などから恨みを買うことにもなりかねない。やるなら気付かれないように、だ。


「とりあえず中に入ろう。裏口の方はグールもほとんどいないみたいだしな」


 グールは人気のある方に釣られるためか正門の方に集中しているようだ。

 たぶんグールの家族とかがその姿を見るために集まってああして騒いでいるのが原因だろう。


 そのおかげと言うべきか裏口から入るのはそう難しいことではなかった。装甲車もインベントリに収納すれば邪魔にもならなかったし。


「ふう、一先ずはこれでどうにかなったな」


 由里は家族と合流して互いに無事だったことを喜んでいる。


 その友人達も家族がこの場に居ないか探しに行ったようだ。

 だから彼女らをお世話するのは一旦ここまでだ。


 少なくとも今後は無償で助けるつもりはない。


 いくら俺が異世界からの帰還者でこういう事態に成れているとは言え出来ることは限られている。


 家族の安全を確保するためにも無駄なことに労力を割いている暇はないのだ。


「さてと、いい加減に美夜と合流するか」


 そう思って携帯を取り出すとまるでそれを待っていたかのようなタイミングで電話が掛かって来た。


 ディスプレイに表示される名前はたった今考えていた相手である。


「もしもし」

「……」

「どうした。聞こえてないのか?」


 通話に応じたが応答がない。


 あちらから電話をしてきたのに。その事実が俺に嫌な予感を抱かせた。


(いや、まさかな)


 あいつは邪神討伐を成し遂げた英傑の一人だ。


 治癒の力も取り戻したのならゴブリンやオークごときで苦戦することもあり得ない。


 万が一不覚を取って負傷してもそれを治す力があるから絶対に大丈夫に決まっている。


「おい! 質の悪い冗談はやめろよ」

「……はは、ごめん。驚かせちゃったみたいね」


 声が聞こえたのでホッとした。


 意識があるのならあいつは治癒の力がある限り死ぬことはない。


 そのくらいにあいつの治癒の力は強力なものなのだ。


「ったく、心臓に悪いぞ。少しだけ何かあったのかと本気で心配したじゃねえか」

「心配してくれたんだ。ふふ、なんだ。そんなに焦るなんて意外と私のことが好きだったんじゃない」


 その声色は不自然なほど優しげで張りがない気がした。


「お前、どうした? 何があった?」

「……ごめん。やらかした」


 信じられない。いや信じたくない。だが残酷にもあいつはその事実を告げた。


「私はもうすぐ死ぬ」

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