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第109話 幕間 理由と意味を失った戦乙女

 救助が必要な別動隊とやらがいる方角へと私は急ぐ。


 もっとも私自身の気持ちとしては、別動隊やその彼が守る民間人が全滅しようが、正直どうでもいいのだけれど。


(やっぱり瞬脚は長距離を移動するのには向いてないか)


 MPを消費して短い距離ならそれこそ一瞬で指定した場所まで移動できるスキル。


 近接戦などでは敵に近づく際などで非常に役に立つスキルだが、その距離が長くなれば長くなるほど消費MPが加速度的に多くなってしまうのである。


 更にその速度も距離が延びるほどに低下するらしく、あまり長い移動を設定すると雑魚ならともかく、それなりの腕を持つ相手なら良い的になるだけという感じだった。


(英雄様の転移と違って移動だから、その間に攻撃を受ける可能性も否めないか)


 使い方を誤ると、それこそ敵の攻撃に自分から突っ込むなんてことになりかねない感じだった。


(なら、やっぱり移動だけならこっちね)

「魔闘気、発動」


 そう考えた私は、別のスキルを発動した。


 それはかの英雄様も所持しているスキルであり、消費したMPの分だけ全ステータスが上昇するというものである。


 本来ならこのスキルは切り札として運用すべきものだ。


 何故なら簡単にMPが回復しないというこの世界の仕様上、普通なら再使用できるようになるまで、どうやってもかなりの時間を要するので。


 だがしかし、今は無限の魔力を持つかの英雄から常に魔力が供給されている。


 それも五秒で150以上も。


 それはつまり現状でMPが107の私にとって、五秒ごとにMPが全回復することを意味していた。


 元々持っていたエネルギードレインというユニークスキルのおかげでMPには困っていなかった私だが、それでもこうして好き放題使えるとなると話は別である。


(やっぱり英雄様の能力は反則ね)


 異世界でも彼の能力については何となく把握していた。


 けれど能力的に単身で戦うことが多く、また敵から魔力などを奪い取れることもあってか、私が彼に頼る機会が来ることはなかったのだ。


 それに勇者一行とはまだ別の意味で色々と目立っていた上に、単独行動を基本としていた私が下手に接触すると、そこから周囲の注目を集める事態にも繋がりかねなかった。


 そこから彼の情報が漏れれば目も当てられない。


 そういう色々な事情が重なった結果、異世界では私が彼の英雄と関わる機会はほとんどなかった形である。


(だけどその他大勢からしたら、これほど頼りになる能力もなかったでしょうね)


 たとえば強力な癒しの力を持つ聖女ならば、彼からの魔力供給が途絶えない限りはほぼ永久的にその癒しの力が使えるようになる。


 そうなれば即死でなければ自分を含めて死なせないことも可能だったろう。


 きっとその力で何度も死にかけた仲間や自身を救ってきたに違いない。


 それほどまでにかの聖女の癒しの力は強力だったのだ。

 それこそ生半可な怪我や傷など一瞬で治癒してしまえるほどに。


 その他にも色々と恩恵は受けた人物は存在しただろうが、なにより勇者だ。


 邪神討伐を成し遂げた張本人にして、数多の魔族を狩り尽くし、恐らくは誰よりも邪神勢力に属する存在を滅ぼしたであろう傑物。


 様々な能力を神から与えられた私達の中でも、一際異様で強力な力を持っていた彼。


 だがそんな彼も初期の頃はその力を一瞬しか維持することができなかったと聞いている。


 そんな彼がある時を境に、急にその制限などなかったかのように暴れ出したものだ。


 巷では時間を掛けて能力の扱いを完璧なものにしたとか、あるいは秘められていたもう一つの能力が覚醒を促したとか言われていたものだが、それらの推測はどれも間違っていたのだ。


 だって本当はその活躍の影にいたのだから。


 決して日の当たらぬ場所から、勇者やその一行の活躍を支え続けた英雄が。


 本来なら得るはずだった賞賛や栄誉の代わりに、役立たずの汚名を甘んじて受けることを選んだ変わり者が。


「まったく、変わり者はどっちだっての」


 彼の方が、自分勝手に好き勝手やっている私なんかよりもずっと変わり者だろう。


 だって私は自分の欲望や思いに素直なだけなのだし。


 そしてその変わり者の英雄は、こちらの世界でも同じ道を歩もうとしている。


 しかも今度は失った大切な者を取り戻すという無理難題を成し遂げる決意までした上で。


 これで他人を救うのが大好きであり、それが人生の生きがいとかいうある種の変態なら、まだその在り方も理解はできた。


 あるいは世界を救う救世主たる自分に酔いしれている、とかでも良かっただろう。


 でも彼はそうではない。

 あくまで求めるのは平穏な日常であり、そこに嘘偽りはないのだ。


 きっと彼はこんな事態が起こらなかったら、それこそ平凡な一生をそのまま送ったことだろう。


 これまでの彼を見ていて、それが事実だと私は確信できた。


(流石にこれだけ頑張っている人を見ると、気分屋な私でも思うところはあるものね)


 私は基本的に他人がどうなろうと興味がない。

 もっと言えば、基本的には誰が死のうが生き残ろうがどうでもいい。


 それは他人だけでなく《《自分を含めて》》、である。


 だって私にとって大切な人など既にいなくなっているのだから。


 それは良い意味でも悪い意味でも、だ。


 生きる理由も意味もないが、死ぬ理由も意味がないから死なないだけ。


 だからやりたいことをやって、それで死ぬ時がきたらそれを潔く迎え入れる。


 生きる意味を失った今の私の行動原理などその程度のものだ。


 でも、だからこそだろうか。それと同時に思うのだ。


 そんな生きたまま死んでいるような私でも、必死になって足掻く彼のような眩しさを感じる人の手助けが出来れば、何か生きていた意味が出来るのではないかと。


(……捉えた)


 全てのMPを消費したことで100近くも全ステータスが強化された私の耳に、普通なら届くはずのない銃声や悲鳴が聞こえてくる。


 それを聞いても可哀そうとか助けなきゃとか欠片も思わない私は、もしかしたら既に壊れているのかもしれない。


 そんなことを考えながらも私は武器を構えてその場に飛び降りるのだった。

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