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4 アイリーンの気持ち

話し相手になってほしいと言われて、了承するとあっという間にガゼボまで連れて来られてしまった。

こんな、人の目のないところに来てしまって良かったのかしら。

お父様から見えないところで安心だけど、この方のこともよくわからないし、、、、。

思い悩んでいると、急に公爵が話しかけて来た。

「寒くはないですか?気が利かず申し訳ない。」

優しい方なのだわ。

「は、はい、大丈夫です。」

良かった。きちんとお返事できたみたい。初めての夜会で、初めて父や使用人以外の男性と話をした。今日はもう自分に合格点をあげて帰りたい。


「失礼だが、あまりこういった場で見かけませんでしたよね、ホーランド嬢。、、アイリーンと呼んでも?」

「はい、、。あの、実は夜会へ出るのは初めてで、どうすればいいのか困っていたのです。」

やっぱり見かけない顔では、皆さんお声などかけてくださらないわよね。家から無事に出ていくために、次は気をつけなくては。今日はこのまま乗り切りましょう。


「アイリーン、、、素敵な名前だ。あなたのように可愛らしい方には、決まったお相手がいるのでは?」

いるわけないでしょう。

「いえ、私、本当にこのような場所に来るのも始めてで、、。」

会話を繋げられないアイリーンに、公爵も呆れたのか口を噤む。

いけない。せっかくお話をしてくださる方なのに。


アイリーンが、ふうっと息をついて、決心したように話始める。

「実は、父から結婚相手を見つけるように言われているのです。その、、、歳も18ですし。」

今日の最も重要な父からの指示を、目の前の公爵に打ち明けることの意味も考えず、アイリーンは続ける。

公爵様も穏やかに微笑んでくださっている。

「父は、、厳しい人で、、、。どう言い付けを守ろうか、困ってしまって。」

言うことを聞かないと手をあげることがある、などと言うわけにもいかず、困った状況を打ち明けてみると、思いがけない提案をされた。


「どうだろう。あなたと私は同じ悩みを持つようだ。お互いに交際でも始めたことにすれば、あなたのお父上も安心されるのでは。私も早く相手を決めろと周りがうるさくてね。協力してくれるならこれほど嬉しいことはない。」


「それは! そんなことは、無理です!私はそんなつもりでは。」

まさか、目の前にいる公爵と交際がしたいと思っていたと思われたのでは、と思い慌てて否定する。


「どうかお願いだ。しばらく私の交際相手になってくれないか。欲しいものは何でも贈るよ。」

そんなことを言われても、困ってしまうわ。


アイリーンはしばらく考え込んでしまった。

そんなにお困りなのかしら。お相手など、選び放題でしょうに。いいえ、違うわ。「交際を始めたことにすれば」と仰ったもの。つまり本当にお付き合いするわけではないのよ。そういう「フリ」をするだけなのよね。それなら、、、

「バトロイデス公爵様の、お家にご迷惑がかかってしまうのでは?」

家の方は、嘘だとわかった時にがっかりされるのではないかしら。

「そのような気遣いは無用だが、、、そうだね、せっかくだから。しばらくお互いの名前は伏せておこう。お父上には私の名前は秘密にしよう。」

アルフレッドが人差し指を立てて唇に当てる。

「謎の人物がアイリーンに一目惚れをして口説いている、それでいいかな。」

ご迷惑でないのなら・・・いい考えかも。

この人に、私のお願いをしてみてもいいかもしれない。


アイリーンは困ったように考え込んでいたが、やがて紡いだ言葉にアルフレッドは眼を見開いて驚いた。


「公爵様。父は私に早く家を出てほしいのです。あなたとの交際期間が終わったら、どうか私に働く場所をご紹介くださいませんか?

ほしい物は何でも贈ると言われたので、、、」

そうしたら、私はあの家を出ることができる。できればシャーリーも一緒に、と思うけど、それはその時に考えましょう。


しばし固まった公爵は、思い直したように微笑んで、

「もちろんだ。君が困らないように考えよう。」

と約束してくださった。良かった。ひとまず将来の見通しがついたわ。初めての夜会で、自分の将来を切り拓いた気分だ。

アイリーンは自然とニッコリと微笑んだ。

アルフレッドはしばしその微笑みを見つめる。ふっと口元を歪めて言う。

「我々の契約だ。よろしく頼む。」

差し出された手に、そっと手を重ねる。

「よろしくお願いします。」


会場の手前までアイリーンをエスコートすると、アルフレッドは「連絡する。」と言い残して去って行った。アイリーンはホーランド家の馬車を見つけてそっと乗り込む。

御者にはそっと目配せをする。使用人の多くはアイリーンに同情的で、父が見ていない時は何かと助けてくれている。


程なくして父が戻ってきた。御者にすぐ馬車を出せと指示を出す。

「何だ、いたのか。置いて帰ろうと思っておったわ。守備はどうだった。」

父は不機嫌そうに言う。大体、話しかけるのも嫌なのだそうだ。

「何人か、お話しました、、、、」

「それだけか?」

機嫌が悪くなる。が、公爵の名前は伏せると約束したので、ここで言うわけにはいかない。

「初めてですので、緊張して、、、。」

「言い訳は聞かん!」

パシっと音がして、頬を打たれたのだと気づく。良くない兆候だ。

「このシーズンが終わるまでに、行き先を見つけろ。できればうちの得になる家がいいが、お前にそこまで期待はしておらんわ。マルグリットが、お前のような大きな娘のいる家には来たくないそうだ。」

マルグリット・キルスティングは最近屋敷に出入りしている男爵令嬢だ。概ねアイリーンはマルグリットに無視されていたので気にはしていなかったが、「家に来る」とは?


「結婚されるのですか?」思わず尋ねる。

「お前には関係ないがな。3ヶ月後だ」

顔色も変えずに言い放つ。父の結婚はこれで5回目になる。

驚きもしないが、懲りもせずよくもまあ、とは思う。

なるほど、私が邪魔になった理由はそれか。打たれた頬を押さえて外の景色を眺める。

滅多に外出をしないので、外の景色を見られるのは嬉しい。

仕事を見つけてもらえたら、自由が手に入る・・・きっと。

公爵様との約束を守って、外の世界へ出る時、私はどうなっているのだろう。3ヶ月後の自分にあれこれと想像を巡らせるアイリーンだった。

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