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27 その後の二人 その2

バトロイデス家は政治の中枢を担う三大公爵家のひとつで、金融と経済の安定を一手に引き受け、財務大臣も兼ねている。代々生真面目で、決して贈賄に揺らがない、潔癖な性格をアルフレッドも受け継いでいた。


厳しい予算案を組み、決して無駄を許さないが、福祉や医療には毎年きっちり資金が回るように手配するのだ。

「平民のご機嫌取りめ」

などと揶揄されることもあるが、そのような発言をする者は必ず後ろ暗い部分があるものだと、徹底的に調査がなされるため、多くの貴族はアルフレッドを氷の財務大臣、と一目置いて刺激しないようにしていたのだ。


アルフレッドは脱税に厳しい大臣としても知られており、一旦税金の誤魔化しが発覚すると徹底的に追徴税を課し、代が変わるまで毎年その家門の出納をアルフレッドが確認し、皿1枚買うにもアルフレッドの決裁なしには難しいという、厳しい管理下に置かれる。


このため、脱税の発覚の恐ろしさは貴族に周知されており、その罪に手を染める者はほとんどいなかった。


今日は脱税の疑いをかけられたハイネン家の家宅捜査にアルフレッドが出向いていた。

「酒類には別途課税があるはずだ。それを払った記録は?」

「おお、ナンノ記録? 税金はこれですヨ?」

「これは一般食品にかけている税金だ。税率が違うだろう。」

「おんなじ、そうそう。一緒ヨネ?」

「話が通じないな。」

ハイネン一家は今年移住してきた外国人一家で、言葉の壁が厚かった。さすがのアルフレッドも手を焼いていたのだ。

これは父親を連行して、役所で通訳を付けて尋問するか、と思った時、書類を確認していた書斎の本棚の影から、一人の少女が飛び出して来たのだ。

「お父様は、言葉がわからないから、間違ってしまうの。お願い、許してください。私が計算を手伝いますから。」

少女はアイリーンと同じ緑の瞳だった。

地元の学校で学んでいるため、この国の言葉が親よりも上手いようだ。

「誰だ!子供が入り込んでるぞ!」

補佐官が怒鳴りつけると、少女はビクッと震えて涙目になる。

「お願い、お願い!」

部屋から出されながらもアイリーンによく似た少女は叫んでいた。


「しつけの悪い娘だ。だから外国人なんて、、」

「黙れ。」

アルフレッドが悪魔の顔をしている。補佐官がピシッと固まる。

「帰るぞ。」

「え、いや、しかし。大臣!まだ書類の確認が、、、」

「聞こえないのか。帰るぞ。」

「はい!」

アルフレッドが同じ指示を繰り返さないのは有名な話だった。一度聞いて理解できない者は何度言っても同じだ、と言って。

二度の指示は相当な怒りを示している。

優秀な補佐官は帰り道、馬車の中で「どうしよう、どうしよう」と子供のように呟いていた。


その後、ハイネン家には不足していた税金の支払いの請求書が送られ、外国語に堪能な商人が派遣された。ハイネン氏が会計管理をできるようになるまで補佐として働くらしい。


氷の大臣が珍しく温情を示した、と話題になったのである。


それからしばらく後のこと。

アイリーンがアルフレッドの職場へやって来たのである。

妊娠は5ヶ月に入り、アイリーンの美しさは輝くばかりだった。艶やかなシルバーブロンドは美しく結い上げられ、ドレスはアルフレッドが選んだもので、小花を散らしたプリントがされている。

「アルフレッド様。」

アイリーンが鈴を振るうような声で夫を呼ぶ。

あまりの可愛らしさに、部屋にいた全ての事務官の視線が釘付けになっていた。

「アイリーン、どうしたんだ。こんなところまで。」

普段鬼のように厳しい上司が微笑んでいる。

あまりのギャップに事務官たちは恐れ慄いた。

「診察の帰りに寄ってみたの。この頃帰りが遅いでしょう。迎えに行ってはどうかって、マティアスが」

マティアスか。ボーナス出さないとな。

「そうか、ちょうど終業だ。一緒に帰ろう。入り口で待っていてくれ。」

「来てみて良かったわ。待ってるわね。」

アイリーンが笑顔を見せて去っていく。しばらく背中を見送って振り返ると、事務官たちも夢でもみているような表情で見送っている。

「おい。」

アルフレッドの一声で、全員我に返り、残りの書類をまとめ始めた。


全く。一緒に帰れるのは嬉しいが、職場の男どもにアイリーンを見せるのは気が進まないな。

アルフレッドが片付けを済ませてアイリーンの元へ急ぐと、好色で有名な男爵がアイリーンの腕を掴んでいた。

「綺麗なお嬢さんだ。ぜひ私と行きましょう?大丈夫、ちゃんと家まで送りますよ?」

「腕を離してください。もう夫が来るので、結構です。」

アイリーンは腕を放させようともがいているが、しつこい男爵はさらにもう一方の腕を強く掴んだ。

「痛っ。」アイリーンが痛みを訴える。ここでアルフレッドの理性は吹っ飛ぶ。

「妻を離せ、この下衆が。」

アイリーンに触れていた手を掴んで捻り上げる。

男爵の手が触れた跡が赤くなっていた。アザになるかもしれない。

アルフレッドはアイリーンに、馬車に乗って待つように言うと、嫌がる男爵を引き摺ってどこかへ行ってしまった。


後から聞くと、その男爵は直接法務大臣をしている公爵の部屋へ連行され、その場でアルフレッドにより婦女子への暴行罪を立証され、辺境の鉱山へ送られたそうだ。


その後、バトロイデス公爵の妻に手を出すと、脱税より重い罪になる、と文官の間では新しい噂が広まったのである。

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