23 公爵邸で
公爵邸では、アイリーンとシャーリーの涙の再開があった。
苦労を分かち合ってきた主従の熱い再会に、公爵家の使用人も涙を堪えている。
「シャーリー、ごめんね。ごめんなさい。」
心配をかけてごめん、と何度も繰り返すアイリーンの姿にシャーリーも怒りを持ち続けることなどできなかった。
張り切って部屋へ案内するシャーリーにアイリーンが戸惑った声を上げる。
「まあ、、、こんな立派なお部屋。私には必要ないんじゃないかしら。シャーリー、家も心配だし、ホーランドの家に行きましょうか。」
とたんにアルフレッドが口を挟む。
「あそこは人が住める状態ではないよ、ここは誰も使う予定がない部屋だから、遠慮しないでほしい。何しろ君はまだ私の婚約者だし。医師にも大切にするように言われていただろう!」
何だか必死な様子で、気のせいか、マティアスもシャーリーも呆れている。
「そう、、、、そうよね。誰も住んでいないのだから、どんなに荒れてしまったでしょうね。」
「君が望むなら、すぐに手を入れるようにする。」
もうとっくに片付けは済んでいるのだが。
「ここへ少し泊めて頂いて、また考えましょう。何だか今日は疲れてしまって。」
アイリーンが疲れた様子を見せると、アルフレッドが慌てて指示を出す。シャーリー、アイリーンを休ませろ、湯の準備は、着替えは、と侍女長の出る幕もないほどに。
シャーリーも久しぶりの主人との再会で興奮して、張り切ってお世話をした。
修道院で生活していたアイリーンは朝早く目覚める。
慣れない豪華な部屋に、一瞬どこにいるのかわからなくなるが、目が覚めるにつれて、昨日までのことが思い出された。
起き上がると、待っていたかのようにシャーリーが部屋に来る。
「おはようございます。お嬢様。体お辛くないですか?」
「おはよう、シャーリー。大丈夫よ。」
こうしてシャーリーと過ごす1日がまた始まるのかと思うと、嬉しくてたまらない。
ベッドから起きようとすると、昨日の旅のせいか、いつもより足の痛みが強いようだ。少し腫れているのかもしれない。
「無理はいけませんよ、お嬢様。今日はお部屋から出てはいけません。今湿布をしますからね。」
「ふふ。シャーリーに叱られるのも久しぶりだと嬉しいわ。」
ニコニコしているアイリーンは、シャーリーに手伝ってもらって楽なデイドレスに着替えた。このドレスは誰の?と聞くと、
「あの公爵様がお嬢様のために揃えたんですよ、いつの間に仲良くなってしまわれたのですか。」嫌そうに答えた。
シャーリーはアイリーンに無体を働いたアルフレッドをまだ許していない。アイリーンとしては喧嘩をした覚えも、仲直りをした覚えもない。婚約者の「フリ」をする約束をしたら、父がアルフレッドの家族へ酷い行いをしたことがわかったのだ。アルフレッドは怒って私の純潔を奪ったが、正直、父にムチで打たれた時の方が痛かった。
「ほら、私って打たれ強いでしょう?」
父の行いを考えれば、仕方がないと思うのだ。目の前にいただけで殴られる生活をしていたアイリーンは、アルフレッドの仕打ちも許容範囲だったようだ。
そう思ったことをシャーリーに言うと、また怒られてしまう。
「お嬢様!それは違いますよ!誰も暴力を許してはいけないのです。人の罪は法律で裁かれなければいけません。心や体に傷のつく行いを許さないでください!」
アイリーンはポカンとしている。
「そう?シャーリーは難しいことを言うようになったのね。」
今ひとつ理解していないアイリーンに、もどかしい思いが募る。
(だけどまあ、お嬢様のこの鈍さは、あの公爵様にはいい薬になるでしょう)
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アルフレッドは二人のこのやり取りを、不運にも続き部屋の向こうでしっかり聞いてしまった。
アイリーンが自分の仕打ちをそれほど気に病んでいないことは理解した。しかし、これでは自分の気持ちは全く伝わっていないのでは。修道院まで迎えに行ったことは一体どう思われているのか。
「全然相手にされてないんじゃないんですか、主」
マティアスアルフレッドの傷をさらに抉る。
「襲いかかって妊娠までさせたのに、気にしていない、と来た。これは相当手強い。」
「やめてくれ、、、一体どうしたら、好きになってもらえるんだ。せめて普通の婚約者として、意識してほしい、、、、」
「まあ、世間の男がしていることをやってみるしかないでしょうね。先人に倣え、ですよ。」
「それは何だ!?」




