16 復讐の日
「これは運命だと思った。」
アルフレッドの言葉が部屋に響く。
「母を殺し、父を廃人に追いやった男の娘に出会えた。やっと神が私に味方を始めたのだと思った。」
アルフレッドはさらに言葉を重ねる。
「ホーランドは絶対に許さない。」
瞳はアイリーンを見ているようで、見ていない。もっと奥深くの、アイリーンの父親の影を探しているのか。
「この話を聞いたからには、もう家へ帰すわけにはいかない。しばらくこの屋敷にいてもらう。」
そう言うと、来た時と同じようにアイリーンの腕を掴むと、容赦なく部屋から引き摺り出し、屋敷の地下へ連れて行く。
半地下になったその部屋は、昔から罪人を一時的に留めて置くために使われていたそうだ。
冷たい石に四方を囲まれており、簡素な寝台が中央に置かれているだけ。外の光はほとんど入らず、昼間とは思えない。
「アルフレッド様、おやめください。」
アイリーンの言葉は全く相手にされない。
「母もそう言って抵抗したことだろう。」
「父と、話をします。罪があるなら、償わなければ。」
「そんな生優しい方法で、あの男が罪を認めると思うのか?」
思わない。だけど。これは間違いだと、そう思うのだ。
「もう少しで終わる。我慢しろ。何か知っていることがあれば言え。隠すなら容赦はしない。」
アイリーンにわかることなど何もない。
それでも。
「お願いです。話を、、、」
アルフレッドはアイリーンを寝台へ放り投げると一気に服を引き裂いた。
「何をされるのですか!」
大きなショックで呼吸が苦しくなる。破れた服をかき寄せてアルフレッドを見上げると、そこには感情が全くなかった。
「父親と同じことだ。母の苦しみを知れ。」
そこから記憶が途切れ途切れになる。自分の着ていたドレスの切れ端が宙を舞う。アルフレッドの眼の青色がが暗闇のように深い青になる。
音は聞こえなかった。
激しい痛みを感じて意識が飛ぶ。気を失うのは楽だ。
何も考えずに済む。
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アルフレッドが部屋にいると、マティアスが飛び込んで来た。
「アルフレッド! アイリーン嬢は?」
「・・・捕らえてある。」
「どこに! まさか、地下か?!」
答えないアルフレッドに業を煮やしたマティアスは地下へ行こうとする。
「行くな!だめだ!」
アルフレッドがマティアスの肩を押さえる。
「今は・・・行くな。誰も行くな。私がいいと言うまで誰も近づけるな。」
「まさか・・・。」
マティアスはガックリと膝をつく。
「アルフレッド。いや、主、ホーランドの娘はこの件と無関係だ。彼女は何も知りませんよ。」
「そんなことは、まだ、、。」
「ホーランド邸を探れって言ったでしょう?」
マティアスは眼を閉じて報告を続ける。
「この1か月、あの家に張り付いていました。アイリーン嬢も、被害者です。彼女は生まれた瞬間から無視されて、物心ついた時から虐待を受けてます。」
アルフレッドの顔色が青ざめる。
「そんなわけ、ないだろう。あの家に住んでいたじゃないか。ずっと住んでいるんだろう。」
「侍女の親戚を人質に取られているんですよ。あの侍女、伯爵の四番目の妻の従姉妹なんですよ。四番目の妻は、あの屋敷の地下に監禁されてます。」
「何だって、、、、!」
マティアスは世間の知らないホーランド家の秘密を探っていたのだ。最初は隠密に、最近は出入りの肉屋に扮して屋敷内を調べていた。
伯爵家であるにも関わらず、極端に使用人の数が少なく、よく調べると全員、弱みを握られていたのだ。
お金の弱み、家族の弱み、そういったものが何もなければ薬物中毒に仕立て上げて家から出られないようにしていたのだ。
アルフレッドは言葉を失った。
「虐待というのは?アイリーンはそんなことは一言も。」
家を出たいと言っていたではないか。シャーリーと二人で。
あの艶やかな肌には傷ひとつないように見えた。
さっきはどうだった?
アルフレッドは血の引く思いがした。地下は薄暗くて、よく見えなかった。
「アイリーンを、、連れて来る。」
ふらりと立ち上がる。マティアスは慌ててメイドに客用寝室を整えるように指示を出しに行った。




