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出会った二人

最初の出会いは偶然だった。

よくある夜会でありきたりな出会い。


「お嬢さん、落としましたよ。」

青い瞳に闇のような黒髪、鍛えられた体は夜会用の服の上からでもわかる、多くの令嬢を虜にする整った顔立ちの青年は、自身の魅力を十分に自覚していた。


「あの、ありがとう、ございます。」

声をかけた女性が目を上げる。

時が止まったようだった。

女性に見惚れるなんて。

この国では珍しい、鮮やかな緑の瞳に腰まで届くシルバーブロンド。ドレスの趣味は今ひとつだと思うが、透き通るような肌は多くの飾りを必要としない。

何より瞳の緑が印象的で、、、、、


「あの、すみません。失礼します。」

その令嬢は青年の差し出した手の上にある安っぽい扇子を遠慮がちに取ると、まるで青年のことなど目に入らぬかのように広間の奥へ消えて行った。ここまで気のない態度を取られることが新鮮でつい目で追いかける。


「彼女は誰だ?」

知らない顔だった。そっと後ろに控える侍従に尋ねる。

「調べて参ります。」

無駄のない動きで侍従が側を離れていく。面白がるような表情は隠せていない。それも構わなかった。あの瞳の女性は一体、誰だ。


青年の名はアルフレッド・バトロイデス。この国の政治の中枢を支える御三家のひとつ、バトロイデス公爵家の一人息子である。前公爵はただ一人の息子に昨年爵位を譲り、領地へ引退したため、彼こそが公爵である。

23歳という若さで爵位を受けたアルフレッドは容姿に恵まれかなりのキレ者だと噂だが、未だ婚約者もいないことから若い令嬢たちの注目の的となっている。何とか彼の目に映ろうと、貴族の令嬢は夜会に来るとここぞとばかりに色気を振り撒く。その後ろにはしたたかな親の思惑も見え隠れし、アルフレッドは令嬢たちとの無駄なやりとりに辟易していた。


今まで女性に心惹かれたことなどない。

夜会に出るようになった頃は、耳障りの良い褒め言葉に気を良くして、一晩の情事を楽しんだこともあったが、元来生真面目な性格であったため、軽薄なやり取りにも早々に嫌気が差したため、現在では専ら「氷の公爵」の二つ名を(ほしいまま)にしている。


結婚目当ての令嬢は、冷たい言葉で彼女らの高いプライドをへし折れば当分の間近寄って来なくなるが、眉目秀麗なアルフレッドと一晩でも、と情事を期待する者は少々厄介だ。

どんなに冷たい態度を取ろうと、アルフレッドから少しでも何かもぎ取ろうとする者もいる。最近は一夜の関係も煩わしく、話しかけられていても聞こえないふりをすることもある。


少なくとも今日、アルフレッドが夜会へ来たのは一夜の相手を探すためではない。

復讐相手の調査のためだ。


ダリウス・ホーランド伯爵。


憎んでも憎みきれない男。父と母の、バトロイデス家の仇。

あの男を破滅に追いやるためにこれまで生きてきたのだ。

この復讐心こそがアルフレッドの生きる力であった。


あと少し、あと少しであの男を破滅させることができるのだ。

ギリリ、と歯を食い縛ると侍従のマティアスが戻って来た。


(マスター)、顔が怖いですよ。抑えて、抑えて。」

笑いをこらえているようだ。

マティアスはアルフレッドの乳兄弟で、半年ほどアルフレッドより先に産まれたことを理由に、よく揶揄うような物言いをする。

アルフレッドの護衛も兼ねており、二人は大抵行動を共にしている。

本当の兄弟のように育っており、アルフレッドが心から信頼する数少ない人間の一人でもある。


「報告は。」

「さっきの令嬢、あまり社交はしてないんでしょうね。誰に聞いても知らないって言うから、手こずりましたよ。」

「で?」

さっさと結論を言え、とばかりのアルフレッドに、マティアスはヘラヘラした表情をスッと無表情に変えた。

「どうやら、ダリウス・ホーランドの連れですね。ほら、後ろにいるでしょう。奴に娘がいたなんて、聞いたことないですが。新しい愛人か何かですかね。」

「何だって・・・!」


よく見ると、ダリウスの2歩ほど後ろに先ほどの令嬢が立っていた。所在なさげに視線を彷徨わせている。隣の男と喋っていたダリウスは令嬢に気がつくと、顔を顰めて令嬢の腕を掴む。

隣の男に断ってホールの外へ出るようだ。


あんなに簡単に腕を掴むなんて。やっぱり愛人か?


見つからないようにそっと跡を追う。

アルフレッドがそっと様子を伺うと、令嬢は無表情で腕を掴まれたままダリウスに何か言われていた。


「・・・言った通りにしろ。わかったな。あと1時間は帰らないからな。」

「はい、お父様、、、、」

やっぱり無表情のまま答えている。

お父様? 娘だったのか。

ダリウスは冷たい表情で言葉を続ける。

「面倒をかけるな。」


その後、興味を失ったように掴んだ腕を放すと、再びホールへ戻って行った。

後に残された令嬢は腕をさすって、途方に暮れたように立ち尽くしている。宿敵の娘が無防備に立っている。利用しない手はないだろう。

アルフレッドは計算された笑みを顔に貼り付けて足を踏み出した。

この娘も、駒になるだろうか。

シッシっとマティアスを側から追い払う。


「いい月夜ですね。」

アルフレッドは目の前の女性に狙いを定めた。


これが二人の出会い、運命がの糸がもつれ始めた夜だった。






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