第95話:ソナの居場所
魔族の襲撃を受けて一部損壊したアサケ王城。
被害を受けたのはエカとソナの部屋だけだったようで、他はほとんど無傷だった。
壊れたところは、お城に設置された自動修復魔法が発動し、元の形状に戻っている。
「ここに手を当てて、送られてくる映像を映し出してごらん」
「はい」
王太后ジャミ様の私室で、アズは白い丸テーブルに手を置いた。
アズが触れた部分から広がる映像が、テーブル一面に映し出される。
最初に映ったのは、不死鳥の翼に抱かれて眠る赤い髪の少女。
ルビイが実体化しているから、ソナの髪は鮮やかな赤色に変わっていた。
「薬を飲まされて意識を失っているそうです」
アズは召喚獣たちからの目撃情報を告げる。
映像が切り替わり、事件が起こった時にルビイたちが見た光景を映し出す。
ソナは自室のベッドに座って本を眺めていた。
その背後にルルが突然現れる。
ルルは、振り返ったソナを抱き寄せると強引に唇を重ねた。
困惑して抵抗する余裕も無いソナは、喉に何か甘い液体が流し込まれるのを感じた。
それが体内に入ると、ソナの意識が遠のき、全身から力が抜けてゆく。
ルルの唇が離れた時には、ソナは完全に気を失っていた。
多分、この時に睡眠薬か何か飲まされたんだろう。
気を失ったソナを抱き上げようとしたところで扉をノックする音がして、ルルは咄嗟にベッド脇に隠れた。
エカたちが部屋の扉を開けたのは、その直後だ。
「連れ去られた先は、ここです」
アズが言うとまた映像が切り替わり、石壁に囲まれた牢らしき場所になる。
ルルは床にソナを寝かせると、どこかへ転移して姿を消した。
ソナは床に横たわったまま身動き一つしなかった。
身体が冷えてきたのを心配したルビイは火の属性力で主人を温めながら、もう1人の主人であるアズに助けを求めた。
それを受けたアズが魔力を提供してルビイの実体化を手伝い、現在に至る。
ルビイに抱かれているソナの意識は、今も戻っていない。
「この子たちの現在の居場所を地図で映しておくれ」
「はい」
ジャミ様の指示で、アズはルビイがいる位置を世界地図に映し出した。
海に隔てられた、複数の大陸と島々。
その中の、1つの島に赤い点が表示された。
「アサギリ島だね。草木1本生えないから猫人は誰も近寄らない場所だよ」
「そこに魔王の城があるそうです」
ジャミ様とアズが詳しい位置を調べてる。
ソナはアサギリ島にある魔王城に囚われていると分かった。
偵察に出た召喚獣は、主人に自らの居場所を明確に伝える事が出来る。
ルビイはもう1人の主人アズに現在位置を報せた。
「じゃあここへ行って、魔王をブッ飛ばして、ソナとルルを取り返す!」
エカは宣言した。
魔王をブッ飛ばせるのは彼だけ、大切な人たちもそこにいる。
行かないなんて言うわけがない。
ソナが連れ去られた事は、結果的には魔王の居場所を突き止める好機となった。