第93話:ルルの行方
エカとアズは、魔王の心臓を破壊する前にルルが失踪した事を、アサケ王城へ報せに行った。
魔王の心臓や魔族を探知する魔道具なら見つけられるかもしれない。
すぐに生徒会メンバーが呼び寄せられ、ルル捜索が開始された。
爆裂の魔法を使えるエカの存在が、魔王側に知られた可能性が高い。
暗殺防止の為に、アズが護衛につく事になった。
『……どうしてフラムは、致命傷が治せないんだ……』
アズに付き添われて部屋へ向かいつつ、エカが念話でボヤく。
接触していれば完全回避の効果が得られるので、エカはアズと手を繋いで歩いていた。
『蘇生の方が早い、とか言う御主人様がいるからね』
ボクはすまして言い返した。
【再生】の力で内蔵の損傷や四肢の欠損は修復出来ても、生命力は回復出来ない。
大量出血で生命力も尽きかけている場合は、ボクに出来るのは死亡を待って【復活】の力を使う事だけだ。
『救命行為だし、エカは意識失ってたんだから気にしなくていいと思うよ』
念話を共有するアズが会話に加わる。
彼はエカを助ける為なら、たいていの事は出来るだろうね。
彼がそのように創られた事は、もちろんエカも知っていた。
「ソナ、ただいま……あれ?」
自室に戻り、エカは首を傾げる。
そこはソナとの2人部屋で、彼女はエカの帰りを待っている筈だった。
どこ行ったんだろう? と部屋を見回すエカを、アズが急に抱き寄せる。
「!!!」
何だろうと思った直後、エカも見つけた。
ベッドの向こう側で立ち上がる、黒髪の子供。
頭には、黒い犬耳がある。
ルルだ! と気付いた瞬間には消えてしまった。
その腕に、グッタリしたソナを抱えて。
「ソナ!」
叫んだエカは駆け寄りたかったけど、出来なかった。
既にルルとソナの姿は消えていたし、エカの安全を優先するアズが抱き締めていたから。
「馬鹿! 離せ!」
エカはアズの腕を振りほどこうとしたけど、筋力の差が圧倒的に違った。
「なんでルルを捕まえなかったんだ!」
「ごめん、今は無理」
怒鳴るエカをしっかり抱き締めたアズが呟いた直後、壁と窓を突き破って無数の黒い槍が飛んでくる。
完全回避があるからアズもエカも無傷だけど、部屋はめちゃくちゃに破壊された。
床に大穴が開いて落下する前に、エカを抱き上げたアズが跳躍する。
その右手からベノワが飛び出して、その背で2人を受け止めた。
ベノワに乗って割れた窓から屋外へ飛び出すと、城は魔族の大軍に取り囲まれていた。
魔族たちの狙いはエカだ。
アズがついてなかったら、今頃は黒い槍で穴だらけにされていたと思う。
ソナを奪われてブチ切れていたけど、エカは魔法の使用に関しては冷静だった。
お城の周囲には街があるから、落雷は使えない。
街の上空にいる魔族たちだけを攻撃するなら、爆裂魔法一択だ。
「エカ、これ食べて」
察したアズが、持続回復のチョコをエカの口に放り込む。
それを急いで咀嚼して飲み込み、エカは爆裂魔法の起動を始める。
「爆破消滅!」
魔族の大軍は、瞬時に粉砕されて消滅した。