第91話:心臓の隠し場所
魔王本体を含めて、7つあるという魔王の心臓。
その5つ目までの破壊を終えたエカは、アサケ学園の生徒会室に呼ばれていた。
学園内なので赤い毛並みの仔猫人に変身しているエカに、異世界人として認識されているので人型を維持するソナもついて行った。
生徒会室には、銀のシマシマ猫人に変身した生徒会長ロコ、サビ柄の猫人副会長コッコ、不死鳥キイの主人だけど元の毛色を維持する茶トラ猫人カイ、コッコの双子の妹でサビ柄猫人の書記ケコがいる。
見た目ソックリのでっぷり太った三毛猫人の王様と学園長、白猫人の王太后ジャミ様もいる。
薄紅色の毛並みと水色の毛並みの仔猫人に変身した世界樹の子供たち、ローズとエアまで揃っていた。
「あれ? アズは?」
その中に青い毛並みの仔猫人も青い髪の少年もいない事に気付いて、エカは聞いた。
これだけ揃っているのに、エカと同じ魔王討伐の要であるアズが不在なのが不思議だ。
「アズは禁書閲覧室で調べものをしているわ」
教えてくれたケコは、黒い表紙に金文字でタイトルが書かれた分厚い本を抱えている。
エカは何度か図書館へ行ってるけど、黒い表紙の本は見た事が無かった。
「そういえばアズが『禁書が読める』って言ってたけど、学園の図書館にあるんですか?」
「これがその禁書の1つよ。これがある場所に入れるのは、王族以外ではアズだけかもね」
エカの問いかけに、ケコが本を差し出しながら答える。
「禁書を管理する神霊様の許可は得ているそうよ」
そう言って渡された本を、エカはパラパラとめくって流し読みしてみた。
本には、過去に発見された魔王の心臓について書かれている。
これまでにエカが破壊した5つと同様にダンジョン最奥、岩の間、湖や溶岩の底に隠される事が多かったらしい。
その中に特異な隠し場所として、竜や高位の魔族の体内という例も書いてあった。
「6つ目の心臓が見つからなくて、アズに話したらその本を貸してくれたの」
「こんなに良い本があるなら……」
早く貸してくれればよかったのにと言いかけて、エカはハッとした。
色々な隠し方をしてある魔王の心臓。
未だ見つからない1つ。
……特異な隠し方……
エカは、以前ルルが脱走した時の事を思い出した。
魔王の分身に、連れ去られそうになっていた黒い仔犬。
あの時、分身は「僕の物だ」と言った。
それにこれまで、魔王の分身は心臓の側に出現している。
「……まさか、今みんな集まってるのは……」
「そう、ルルについてよ」
エカの言葉を、ロコが続けた。
ロコはローブのポケットから丸い鏡のような物を取り出して、エカに見せる。
そこにはアサケ大陸の地図が映っていて、学園がある地域に真っ黒い点が表示されていた。
「異世界人が作った魔王と魔族探知用の魔導具よ。濃い黒色ほど魔王に近い存在なんだけど……」
言いながら、ロコが鏡の表面を指先でつまんで開くような動作をすると、地図が拡大されて学園の建物配置図に変わる。
黒点はその中の、図書館部分にあった。
「ルルの前世は魔族だから、探知して表示されるのは不思議じゃない。問題はここまで濃い色で表示されるのが、破壊する前の心臓5つとルルだけって事ね」
ロコは愁いを帯びた溜息をつく。
「……ルルの体内に隠されているとしたら、どうやって取り出すんですか?」
問いかけるエカの声が、少し掠れた。
隣に立つソナは呆然として言葉が出なくなり、エカの手をギュッと握る。
禁書の過去例では、心臓を隠されていた竜も魔族も討伐されている。
体内の魔王の心臓ごと爆裂魔法で破壊したと書いてあった。
でも、ルルは敵対者じゃない。
一同が沈黙した時、扉が開く音がした。
「エカ、フラムの力を貸して」
入って来たのはアズ、懐からルルが顔を出している。
ボクの力を借りるという事が何を意味するか、エカもみんなも理解した。
「魔王の心臓はルルの心臓の中にある。破壊すれば、ルルも無事では済まない。だから、フラムの力で蘇生してほしいんだ」
「クゥン」
アズと一緒に、ルルからもお願いされた気がした。