第88話:魔物と魔族とシーツ
「2人ともすぐ来て。アマミ国で魔物の大量発生が起きてるわ」
調査に出ていたコッコが、転移して来て伝えると、ロコとアズはすぐに出発準備を終えて同行する。
もともとすぐ出られる準備はしてあるので、行動は早かった。
アマミ国の辺境の村。
魔物の大群が、四方八方から押し寄せていた。
「あんなに分散してたら範囲魔法が届かない。アズ、シーツを広げてその下にエカを呼んで」
ロコの指示でアズは異空間倉庫からシーツを出して広げ、エカの姿を隠しながら転移させた。
「エカ、雷魔法は使えるわね? 四方の魔物の群れに派手なの落として。姿は見せちゃダメよ」
「OK」
ロコに言われ、エカは有り余る魔力盛り盛りの落雷魔法を起動した。
轟音と共に、多数の稲妻が魔物たちの上に降り注ぐ。
数え切れない落雷が一斉に魔物たちを襲い、殲滅した。
「にゃっ?!」
見ていたコッコが、シッポを膨らませて驚く。
ロコもコッコも雷撃の轟音を予想して耳は塞いでいたけど、普通の落雷に比べて稲妻が太過ぎる。
派手な落雷ショーに、コッコが驚いて固まってるよ。
自重しないエカの攻撃魔法は、まるで太古に地上を焼き尽くしたというニンゲンの超兵器のようだったよ。
「中位魔法の落雷であの大群を全滅させるなんて、さすが勇者ね」
ロコが苦笑する。
彼女の予定では、派手な魔法で気を引いてこちらへ向かってくるのを自分とエカで片付けるつもりだったらしい。
「おかげでスッキリしました」
シーツに隠れながら、エカも苦笑していると、ロコとコッコが左右からシーツをめくり上げて中に入ってくる。
一瞬キョトンとしたエカも、すぐに気付いた。
全滅した魔物が転がる大地の向こうから、一斉に炎や氷の矢が雨のように降り注ぐ。
その矢はアズとシーツに接触する事無く、避けるように周囲に落ちた。
「来たみたい」
「うん。気付くようにわざと派手にやってもらったからね」
コッコとロコが小声で話してる。
間に挟まってるエカは、困惑して鼻の穴広げて真顔になった。
「エカ、さっきの魔法、探知で出どころは分るわよね?」
「はい」
「じゃあ、アズが剣を空に向けたら合わせてさっきの落雷お願い」
「わかりました」
ロコは何か考えがあるみたいだ。
「じゃあアズ、剣を空に向けて。魔法を使うフリをするのよ」
「はい」
ロコの指示でアズが剣を空に向けると、エカが合わせて魔法を起動した。
まだ姿が見えない魔族たちを、魔法の探知で居場所を把握したエカの雷撃が襲う。
エカ、魔族相手という事で更に魔力を盛って雷撃の威力を上げてる。
エカ2度目の雷撃の後、敵からの魔法は飛んでこなくなった。
「大半殲滅されたけど、少し逃げたのがいます」
「アズが魔法を使ったように見せといたから、まあいいでしょう」
雷撃範囲の外側に、高速で離れてゆく小さな影を見つけたアズが言う。
敵側にはエカの存在は知られない方がいい。
暗殺に来られたら面倒だからね。
「アズ、そいつらに剣を向けて」
エカはふと思いついたように言う。
敵が逃げ去る方角にアズが剣を向けると、その動作に合わせて爆裂魔法を発動する。
逃げていた数体の影は、全て粉砕された。
「よし、目撃者は片付けたぞ」
「エカそれ、なんか悪者みたい」
「敵とみれば容赦ないとこ、やっぱり双子ね」
得意気に言うエカに、コッコとロコが苦笑した。
「エカ、雑魚相手に爆裂魔法は勿体ないよ」
アズがシーツの中に入ってくると、何か点検するみたいにエカの胸に耳を当てた。
「だ、大丈夫だよ」
ちょっとうろたえるエカは、アズが爆裂魔法の起動エネルギーが何か知ってるんだと分かった。
爆裂魔法は、魔力じゃなくて生命力を消費する。
使い過ぎれば生命力が尽きて心臓と呼吸がが止まる。
誰からも聞いた事は無いし、エカも修行するまで知らなかったのに、アズは何故知ってるんだろう?