第86話:闇に飲まれた村
アズが海の向こうの国々で活動するようになって、ボクたちはアサケ王国がいかに安全だったかを実感した。
アサケ王国はその領土内に世界樹の森があるから、魔王も魔族も迂闊に手が出せないらしい。
外国では魔物の大群が村を襲う事が多く、住民が全滅して滅びた村もあるって聞いた。
アスカ王国領土内の、小さな農村。
そこは魔物の大群に襲われて、廃村と化していた。
亡くなった者の遺体を弔いたくても、また魔物が襲ってくるから出来ずにいたという。
ダンジョンにあった魔王の心臓を破壊した翌日、アズとロコはアスカ国王に頼まれてその村を訪れた。
「間に合わなくてごめんね」
ベノワが伝えてくる映像の中で、アズは白骨化した遺体を埋葬しながら呟く。
普通の子供なら白骨死体なんて見たら怯えたりして平常心を失うところだ。
映像を見たエカは鼻の穴広げて真顔になったし、ソナは青ざめてフリーズしてたよ。
けど、アズは状態異常が起きない【完全回避】持ちなので、遺体を憐れんではいるけどメンタルに異常は無かった。
白骨化するほど月日が経ってしまった遺体は、もう蘇生魔法も不死鳥の力も効かない。
村には亡くなった住民の血縁者や、埋葬と片付けを手伝いに来た猫人たちが来ていた。
「アズ! 手伝って!」
ロコの声がした方を見ると、生き物の気配に気付いた魔物の大群が向かって来ている。
あれを片付けないと、弔いに来た猫人たちが襲われてしまう。
アズはまずロコと自分に四神の支援魔法をかけた。
風神の息吹効果で、魔物の群れも埋葬作業をする人々も停止したように見える中、ロコの魔法だけが一方的に攻撃を加え始める。
ロコ得意の氷魔法、無数の氷の槍が魔物たちを貫いてゆく。
魔物の大半はそのまま凍結して倒れていった。
「行きます!」
背負っていた剣を抜いて、アズが魔物の群れに向かって駈け出す。
ロコの範囲魔法で殲滅しきれなかった魔物の残りに、斬撃を浴びせて倒してゆく。
アズが振るう剣が速すぎて、加速魔法を共有している筈のベノワ視点でも残像しか見えない。
加速魔法がかかってなかった猫人たちには、きっと一瞬で魔物が倒されたように見えたと思う。
全ての魔物が倒れると、アズはそれを異空間倉庫に収納した。
魔族と違って、魔物は食用にも素材にもなるからね。
この大群は、天変地異の前触れといわれる魔物の大発生みたいだ。
昨日エカが破壊した魔王の心臓があった、ダンジョン周辺の森から沸いた魔物の大群。
原因は魔王の心臓にあるような気がするよ。
アズは異空間倉庫に収納した魔物の遺体を、肉や毛皮や牙などに解体して配った。
「家族の仇を討ってくれて、ありがとう」
受け取りながら礼を言う猫人たちの中には、魔物に家族全員を殺されてしまった冒険者もいる。
キジトラ毛色の大柄な猫人で、自分で仇を討ちたかったけれど数が多過ぎて今まで出来なかったんだと悔しそうに耳を伏せていた。
クエストで故郷を離れている間の惨劇だった。
アスカ王国以外の国でも、同じ事が起きてるらしい。
早く魔王の心臓を破壊しなきゃって思うエカは、またもどかしく思っていた。