第83話:魔王の心臓
「アズは無事に砦を守れたみたいだニャ」
朝食の席でエカからの報告を受けた王様は、少しホッとした様子だった。
「魔族は、アカツキ王国の何を狙ってるんですか?」
朝食のパンを手に、エカは聞いた。
修行後の大食いは一時的なもので、翌朝にはいつも食べる量に戻っていた。
アズが毎日大食いだったのは、毎日修行していたという事だろうね。
「それをこれからエカに破壊してもらうニャ」
と言う王様は、食後に1冊の書物を見せてくれた。
その書物によれば、魔王は本体と離れた場所に複数の心臓を隠しており、倒すには心臓を全て爆裂魔法で破壊しないといけないという。
「あちらの国王が転移門を開放してくれたから、ここからアカツキ王国へ行けるニャン」
お城の転送陣に足を踏み入れると、王様とエカとソナの3人は、アカツキ王国のお城へ転送された。
外国ではあるけれど、お城の壁の造りなど基本的な建築技術は似ている。
「よく来たニャ」
そう言って出迎えてくれたのは、でっぷり太った三毛猫人のアカツキ国王。
アサケ国王とそっくりだ。
「兄上、あれを破壊出来る勇者を連れて来たニャン」
「やっと魔族の襲撃の日々が終わるんだニャ」
三毛猫王たちは、並ぶとどっちがどっちか分からなくなる。
そんな王様たちに案内されて、エカとソナはお城の地下へ進む。
エカの爆裂魔法で破壊してほしいものは、アカツキ王城の地下に隠されていた。
「これが発見された魔王の心臓の1つニャ」
それは心臓というより、黒い水晶の塊に見えた。
結晶の中心辺りで、濃い影のようなものが揺らめいて見える。
「この結晶の内部に集中して、爆裂魔法を撃ってほしいのニャ」
「分かりました」
もうどっちか分からない三毛猫国王が依頼する。
エカが黒水晶に手をかざして爆裂魔法を起動しかけた時、視界の端に影のようなものが動いて見える。
キンッ! と金属が金属を弾いたような音がした。
エカのすぐ傍に瞬間移動してきたかのようにアズが現れ、同じく突然姿を現した黒髪の少年の剣を弾く。
「チッ!」
襲撃を妨げられた黒髪の少年が舌打ちした。
矛先を変えてソナに襲い掛かろうとする少年を、アズの斬撃が返り討ちにする。
袈裟懸けに切り裂かれた少年は、黒い粒子と化して消滅した。
その様子を横目で見ながら、エカは魔法を起動する。
黒水晶にかざした手の周囲に、無色透明な泡のようなものが舞う。
「爆破消滅!」
起動言語と共に、魔王の心臓と言われる黒水晶は粉々に砕けて消滅した。