第82話:アズ派手にやる
「前衛と雑魚の殲滅は回避の勇者に任せておきなさい。全員遠距離攻撃準備!」
ロコの指揮に従い、猫人の兵士たちが弓矢を手にする。
魔法使いたちは杖を手に待機していた。
「クゥン」
ベノワに乗って敵軍に向かうアズの懐から、仔犬ルルがヒョコッと顔を出した。
アズの完全回避は着ている衣服にも効果があるから、ルルは懐に入っていれば安全だ。
ベノワはアズの召喚獣だから、完全回避は常時共有されている。
「ルル、君の前世の仲間を倒しちゃうけど、許してくれる?」
「ワンッ」
アズが問いかけたら、ルルは即答した。
前世の記憶なんて無いからあれは仲間じゃないと言いたいらしい。
「じゃあ、派手にやるよ!」
敵軍の前方に降り立つベノワの背から飛び降りて、アズは背負っていた剣を抜いた。
この時、エカとボクは初めてアズの夜間訓練の成果を見た。
勇者と呼ばれるにふさわしい戦闘能力を得ているんだと、その戦いを見て知る事になる。
アズの視点から見た敵は、全て時間が止まったかのように動かなかった。
斬撃を加えると、黒い異形たちは真っ二つになり、砕けて黒い粒子となって消え去る。
今アズにかかっている四神の支援魔法は風神の息吹のみ、敵へのダメージは素の攻撃力だ。
素の攻撃力で魔族が即死なんて、子供の火力じゃない。
敵軍の前衛から後方火力まで全て1人で撃破すると、その向こうに大きな魔族がいた。
砦の建物より大きい、巨大な黒い人型の異形。
雑魚を一掃して姿が丸見えになったその怪物に、ロコたちの一斉攻撃が始まる。
アズはベノワに乗って砦へ戻り、1回の攻撃で効果が切れる水神の必中と火神の激怒を、ロコと兵士たちにかけなおしてあげた。
巨大な異形は生命力がかなり高いのか、なかなか倒せない。
風神の息吹の効果が切れそうになり、アズがかけなおしたくらいに時間がかかる。
異形は一方的に攻撃を受けているようだけど、その手が岩を掴もうとしているように見えた。
「アズ、あいつの腕を斬って」
ロコの指示で、アズが再び砦を離れて敵に近付く。
抜き放った剣が白い光を放ち始めた。
地面を蹴って一気に距離を詰めて、一閃。
白い光が閃いた後、異形の腕が切断され、砕けて消える。
アズは異形のもう片方の腕も、同様に切り落とした。
腕を落とされた異形に、ロコの氷魔法が追い打ちをかける。
白銀の杖から放たれた巨大な氷の槍に串刺しにされた異形が、一気に凍結した直後、粉々に砕け散った。
砕けた異形の欠片は黒い粒子に変わって消えてゆく。
「お疲れ様。これでしばらく魔族に襲われる事は無いわ」
兵士たちが勝利を喜ぶ中、砦に戻って来たアズにロコが微笑む。
敵の軍勢は全て消え去り、荒野は岩と土と枯れた植物だけが広がる場所に戻っていた。