第81話:生徒会長のお手伝い
「私はロコ・マヤネ。アサケ学園の生徒会長と言えば分るかしら?」
様々な色の花々が咲く庭園で、長い銀髪の美少女が微笑みかける。
侍女が運んで来たお茶を飲む仕草が優雅な、貴族の令嬢か姫君のような雰囲気の人。
入学式で挨拶をしていた生徒会長は銀のシマシマの猫人だったけど、変身していたのかな?
「生徒会長は異世界人なんですか?」
白いテーブルの向かい側の席についた少女に、アズが問う。
「ロコと呼んでいいわ。貴方と同じ世界樹の民よ。500年ほど前に里を出たから、里では会った事は無いわね」
ロコはエカたちが生まれる前に里を出た、世界樹の民らしい。
「今はこの国の宮廷魔導師で、アサケ学園には才能のある子の見極めに行っているの。今年は4人も世界樹の子が入ると聞いて、期待していたわ」
そう言うと、お茶を飲み終えたロコはアズに片手を差し伸べる。
「一緒に来て。手伝ってほしい事があるの」
「はい」
アズがその手を取ると、周囲の風景が変わった。
花々が咲き誇る美しい庭園から、草木の枯れ果てた荒れ地へ。
そこには、辺境警備の砦があった。
「この砦の向こうは魔族が蔓延る地。襲撃してくる魔族を倒す手伝いをお願いするわ」
ロコがスッと片手を横に振ると、その手に白銀の杖が現れ、ドレスは似た色合いのローブに変わった。
「兵士に攻撃支援魔法をかけてあげて。回復系と防御系は私がかけるから」
「はい」
ベノワから送られてくる映像で、エカとボクはこの時初めて、アズが神々から与えられた支援魔法を使うところを全て見た。
水神の必中は、1度だけ行動を成功させる、戦闘では攻撃を必ず命中させる効果がある支援魔法だ。
アズが学園入学前から持っていた魔法だから、エカもボクもよく知ってる。
青い水の龍が兵士たちの周囲を回り、分散して体内に入ってゆく。
これで魔族の回避が高くても、兵士たちの魔法や物理攻撃が当たる。
ちなみに、この支援魔法をかけても、アズの完全回避には勝てない。
完全回避は、四柱の神々を生み出した創造神様が与えるユニークスキルだからだろうね。
火神の激怒
赤い炎が大きな鳥の形になって、支援対象の兵士たちの周囲を回った後、分散して1人1人の体内に入る。
その効果は、一撃のダメージを大幅に上げる。
地神の慈悲
大地の女神の幻像が現れ、水晶のような涙が散って兵士たちの体内に入る。
その効果は、体力が半分以下になった敵を即死させる。
風神の息吹
ヒュンッと一瞬閃く何かが兵士たちの周囲を巡り、体内に入る。
その効果は、行動の素早さを大幅に上げる。
アズが夏の森で魔王の分身と会った際に、使っていたのがそれだ。
移動速度は速すぎて、瞬間移動したかに見えた。
「前衛は任せるわ。派手にやって敵の注目を集めてね」
「はい」
防御系の支援魔法をかけ終えたロコが微笑んだ時、岩と土と枯れた植物が広がる荒れ地の向こうに、黒々とした群れが見えてきた。