第77話:アズの身体強化魔法
「魔王に正体を知られたのはアズだけだニャ?」
「はい」
王様との状況確認。
森で魔王の分身と会った時、エカとソナは離れて様子を見ていただけで、魔法は使ってない。
ローズとエアは学園内にいて、普通の生徒として授業を受けていた。
アズだけが至近距離の魔法を回避したり瞬時に移動したりするなど、普通の猫人には無い戦闘能力を見られている。
「そういえば、アズが瞬間移動したあれは何?」
エカは森での事を思い出して聞いた。
完全回避ならよく知ってる。
でもあの時、アズは瞬時に移動するという、今まで見た事がない動きをしていた。
「【風神の息吹】。身体強化魔法だよ」
「水神の必中と同じ、神様が稀に1人だけに授ける古代魔法だニャ」
アズの答えに、王様が説明を加えてくれた。
古代魔法なんて、アズはいつどこで習得したんだろう?
「もしかして、アズはあと2つも習得しているのかニャ?」
「はい」
何か知ってるらしい王様の問いに、アズが頷く。
あと2つって何だろう?
「【火神の激怒】と【地神の慈悲】も習得済みです」
アズが告げる魔法は、エカが知らないものばかりだ。
エカは攻撃魔法だけじゃなく、様々な支援系魔法も授業を受けたり図書館で調べたりして習得してる。
でもアズが今言った支援魔法は見かけた事が無かった。
水の神様が【水神の必中】を授けたように、アズは他の神様に会って授かったのかな?
「つまり、アズは四柱の属性神様たち、全員に会ったんだニャ?」
「はい。タマが会わせてくれました」
……タマって誰?
エカが鼻の穴広げて真顔になる。
ソナも話についていけなくてキョトンとしていた。
エカもボクも、学園に来てからのアズをほとんど知らない。
分ってるのは図書館に通ってる事と、夜間訓練をしてる事だけだ。
「なるほどニャ……強化合宿の生徒だけでドラゴンを倒せたのは、その魔法を使ったからだニャ?」
「はい。使うなとは言われなかったので」
ニヤッと悪い顔をする王様に、平然とした顔でアズが答える。
補習が必要な生徒たちがドラゴンを倒すなんて、支援効果が飛び抜けてる気がするよ?
「四柱の神々の強化魔法を得たのなら、アズはそろそろ動く時だニャ」
王様の意味深な言葉に、エカたちはもちろん、アズ本人も首を傾げる。
「アズールに命じる。風神の息吹を使い、この地図の場所を全て偵察してくるのニャ」
そう命じられて手渡される地図を、アズがじっと見つめる。
強化合宿で学園の外に出た経験があるからか、完全回避があるからか、不安は感じてないみたいだ。
「わかりました。ルル、仔犬に戻って」
「ワンッ」
アズは落ち着いていて、白いワンピース姿で寄り添う子供ルルに声をかける。
ルルは素直に従い、仔犬に変身して答えた。
脱げたワンピースを収納する異空間倉庫は、ドラゴン討伐のご褒美にアズが貰ったものだ。
「何か見つけたら、念話でエカたちに報せてニャ」
「はい」
答えた直後、仔犬ルルを懐に入れたアズはその場から消える。
起動言語を発声せずに風神の息吹を使えると知ったのは、もう少し後の事だった。
「王様、俺は?!」
アズだけが任務を与えられる事に疑問を感じて、エカは聞いた。
エカもアズも、魔王に対抗するために生まれた事は里に居た頃から聞かされている。
「エカには、アズが魔王の注意を引き付けている間にやってほしい事があるニャン」
そう言うと、王様はエカにも指示を出した。