第68話:アズと黒仔犬
春の森、百花の洞窟。
「よっしゃ、初級クリアだな!」
「やったね!」
「嬉しい~!」
ダイキチさん立ち合いでのダンジョン初級検定を、アズとソナは難なくクリアした。
「スカート姿じゃないソナって新鮮~」
「かっこいいね」
クロエとマリンが微笑む。
「ありがとう」
微笑み返すソナは、普段とは違うズボン姿だ。
百花の洞窟にいるフェザントという鳥型魔物は、【スカートめくり】という特殊攻撃を仕掛けてくる。
それは猫人にとっては何でもないけど、毛皮が無い異世界人の女の子には精神的ダメージがあるという。
ソナはいつもはスカート姿だけど、今日はフェザント対策でズボンを穿いてきていた。
狩りを終えて学園に帰った一行は、フェザントの肉を飼育棟へ届けに行った。
仔犬、元気になったかな?
って思いながら飼育部屋に近付くと……
「キュンキュンキュン、キュウゥ~ン」
……なんか、可愛い声がするよ?
「肉持って来たよ~」
「キャウォ~ン!」
廊下で掃き掃除をしていたモモンにアズが声をかけた途端、鳴き声が大きくなった。
「……昨日より騒がしい子になったね」
「目が覚めてから、ず~っと鳴いてるんだよ」
「母犬が恋しいのかな?」
そんな話をしながら飼育部屋に入ってみると、チョコンとオスワリして、フサフサのシッポを振っている可愛い仔犬がいた。
「あれ? 静かになった?」
「なんか、アズを見てるような?」
「一昨日よりも目が可愛くなった?」
仔犬は部屋に入ってきた人々のうち、アズを目で追っている。
その顔は捕獲初日の目つきの悪さがなくなり、キュルンと丸い瞳の愛らしい表情になっていた。
「アズ、近付いてみて」
モモンに言われてアズがケージに近付いてみると、仔犬のシッポの振りが速くなり、ソワソワした感じで片方の前足を少し持ち上げたりする。
「扉、開けていい?」
「うん」
モモンに確認してアズがケージの扉を開けたら、待ってましたという感じで仔犬がピョ~ンと飛び出し、アズの胸元に飛び込んでくる。
ボールを受け取るみたいにアズがそれを受け止めたら、仔犬は腕の中でくるんと丸まって大人しくなった。
「……懐いてるね」
横から覗き込んでモモンが言う。
「なんで急に懐いたんだろう?」
不思議に思いつつアズが撫でてあげると、仔犬は嬉しそうに目を細める。
「きっと、怖いものからアズが助けてくれたからだよ」
ソナが言うと、肯定するみたいに仔犬はシッポを軽く振った。
「そいつ、母ちゃんに捨てられてたからな。甘える相手がほしいんじゃねえか?」
チャデが言ったら、仔犬はそちらへ顔を向けてク~ンと悲しそうな声を出す。
「……ってお前、言葉が分るのか?」
「ワンッ」
エカが聞いたら、仔犬が即答するように鳴いた。
言葉、分るみたいだね。
雪狼は賢いから、中には言葉を理解する子もいるのかもしれない。