第66話:脱走は危険がいっぱい
スライムダンジョンでの実習を終えた一行が学園に帰ると、動植物学部の生徒たちが慌てた様子で駆け寄って来た。
「ごめん! アズ、あの子逃げちゃって……探すの手伝ってもらえないかな?」
申し訳なさそうな生徒たちの手を見れば、みんな歯型が付いている。
「先に傷を治した方がいいわ」
そう言って、マリンが治癒魔法を使ってくれた。
完治した彼等と一緒に、パーティメンバーみんなで仔犬を探しに向かった。
「屋外への扉や窓は閉めてるから、中にいる筈なんだけど……」
「手分けして探そう」
「噛まれるといけないから、捕獲玉を持って来たよ」
動植物学部の生徒たちが用意したのは、研究用の魔物を捕獲する魔道具。
それを全員に配り、3~4人に分かれて捜索を開始した。
エカはソナやアズ、動植物学部の生徒モモンを入れた4人グループだ。
仔犬は、新入りがまず入る簡易保護ルームから逃げたらしい。
そこからどちらへ向かったかは目撃されていない。
「全部屋隅々まで探そう」
来たばかりで懐いてない子だから、呼んでも出てこないだろうね。
むしろ隠れちゃうと思う。
しばらく探し回っていたら、なんだか怪しい生き物が飼育されている部屋に来た。
鉢植えだから植物なのかな?
茶色い蔓みたいな物なんだけど、ウネウネ動いてるから生物なのかもしれない。
「それ、触らないようにね、危ないから」
モモンが注意を促す。
「……なんか分からないけど、それ怖い」
「近寄らないでおこう」
何か危険な気配を感じて、エカたちは部屋から出た。
そして隣の部屋を探し始めた時、さっきの部屋からギャンッという仔犬の悲鳴が聞こえる。
「あっ、まさか……」
最初に駆け出したのはアズ。
エカたちも後に続く。
慌てて戻ってみると、部屋の中に黒い仔犬がいた。
さっきの怪しい生物にぐるぐる巻きにされてる。
首をギュウギュウ締め付けられた仔犬は呼吸が出来ず白目をむき、泡を吹いて痙攣していた。
「早く助けないと死んじゃう!」
謎の生物をよく知るモモンが、近くの棚からナイフを取ってきて蔓を切ろうとしたけど、蔓が鞭のように動いてナイフを叩き落されてしまった。
「下がって。俺がやるよ」
ナイフを拾おうとするモモンを遮り、代わりにアズがナイフを手にする。
蔓はまた鞭のように動いてナイフを叩き落とそうとするけど、相手がアズではそれは効かない。
アズはナイフを振るい、蔓をズタズタに断ち切った。
解放されて落下する仔犬を受け止めて見ると、しぶとく首に巻き付いて締め続けている蔓の切れ端がある。
それを引きはがすと、仔犬はようやく呼吸が出来るようになった。
カハーッと大きく口を開けて息を吸ったり吐いたりし始めたから、とりあえず助かったかな?
「危ないからもう勝手にあちこち行くなよ」
仔犬を優しく撫でて、アズが話しかける。
「キュウ~ン……」
微かに目を開けて弱々しい呻き声を漏らした後、仔犬はクタッと動かなくなった。
「えっ?! 死んじゃったの?!」
「大丈夫、気絶しただけだよ」
慌てて聞くソナに、仔犬の状態を確認したアズが答える。
仔犬はグッタリして動かないけど、心臓はちゃんと動いてて、呼吸もしてる。
とりあえずボクの力は使わなくて良さそうだ。