第65話:前衛と後方火力
「今日はソナとアズのダンジョン実習を手伝うぜ」
と言うチャデ率いる卒検合格済みパーティの引率で、ソナは初めてのダンジョン実習に出かけた。
アズは昨日まで強化合宿でダンジョンに行っていたから、初心者ではない。
「お前流の前衛、見せてやんな」
「わかった」
合宿で一緒にダンジョン巡りをしていたチャデは、アズの能力を把握しているみたいだ。
前方に現れたのはスライム。
ドラゴンを狩って来たようなチャデやアズには物足りないだろうけど、初心者のソナに合わせている。
アズはスタスタと魔物の群れの中へと歩いてゆく、
チャデだけじゃなく、エカやボクもアズが何するか察した。
アズは、スライムの群れにわざと取り囲まれた。
ポヨンポヨン跳ねるスライムが次々にアズに襲い掛かる。
けれど、全て虚しく空中を通過するばかり。
アズにスライムが群がっているけど、その攻撃は全く当たっていなかった。
「……」
スライムに取り囲まれながら、アズがチラッと後方メンバーの中にいるソナに視線を向ける。
事前に打ち合わせていたソナが、それに頷いた。
「氷の雨!」
ソナが起動言語を発した。
小さめの氷柱が、雨のように無数に降り注ぐ。
それはアズにはかすりもせず、スライムたちだけを貫いて氷結させた。
「ソナの魔法操作は凄いな。初戦で全弾命中なんて初めて見たぞ」
「えへへ、いっぱい練習してきたのよ」
チャデに褒められて、ソナは嬉しそう。
「アズだけ前衛の時は範囲魔法ブッ放してもへっちゃらだよ」
完全回避の性能を他の誰よりも知るエカは笑って言った。
「よし、ちょっとスライム釣ってくる。ここで準備して待ってて」
「うん」
アズに言われてソナが頷く。
1本道のスライムダンジョン、アズが奥へ走って行った。
一同がしばらく待っていると……
「釣ってきたよ~」
……超笑顔のアズが、洞窟のスライムを全部引き連れて帰ってきた。
それ、何匹いるの?
列の先が見えないよ?
通路を埋め尽くすスライムなんて初めて見たよ。
「……」
エカは、鼻の穴広げて真顔になる。
「ぶはっ!」
「釣り過ぎ~!」
「全スライム釣って来たの?」
チャデたちが爆笑した。
「すご~い! いっぱいいるぅ」
ソナも緊張がとけて笑い出すほどだった。
「ソナ、派手なの撃っていいよ~」
ちょっと呑気な口調で、アズが言う。
「いっきまぁ~す、氷乙女の行軍!」
ソナが張り切って、スライム相手に上位魔法をブッ放す。
アズの後方に長い列を作っていたスライムを、次々に串刺しにしながら氷の乙女たちが猛進した。
「ははは、こっちもやるなぁ」
「容赦ねぇな~」
「スライム涙目ね」
エカたちも笑いながら眺めていた。