第55話:サプライズ
「ローズ、それエカには内緒だったのに」
「あ……」
隣に座ってるエアが、ローズの袖を引っ張って困り顔で言う。
言われたローズが、しまった、という顔をした。
学生食堂のざわめきの中、4人は昼食を食べ終えて、お茶を飲みつつ雑談を始めた。
「アズには知らないフリするから話してよ。中途半端だと気になって眠れなくなっちゃう」
「わたし、聞いてないフリするから、エカに話してあげて」
初等部の生徒が、ダンジョン実習のある強化合宿に行くなんて、普通ありえない。
何故アズはそれに参加しているんだろう?
エカとソナに言われて、ローズとエアは観念して話し始めた。
「実はアズ、合同稽古で高等部の人たちに勝っちゃったの」
「?!」
「エカ、顔」
ローズの話に、エカはまた鼻の穴広げて真顔になる。
ソナが隣から頬をツンツンつついて、我に返らせてくれた。
「武道科の高等部の人たちって、まさかチャデも?」
「うん。チャデ先輩は真っ先に対戦して倒されたよ」
「?!」
「エカ、顔」
チャデ敗北情報に、また変顔になるエカ。
再び、頬をツンツンつついて、ソナが我に返らせてくれた。
体育学部では稽古で先輩と後輩が対戦する事はよくある。
初等部の子たちは技術的に未熟だから、高等部の生徒には勝てないのが普通だ。
チャデは高等部の武道科最強だった筈。
アズは初等部なのに、そんな相手に勝ったの?
「それで、強化合宿にお前も来い~って先生に言われて、連れて行かれちゃった」
「合宿に行く前に飛び級の手続きをするって言ってたよ」
「………」
「エカ、顔」
エカは困惑するばかり。
変顔になってはソナに頬をツンツンされて我に返ってる。
エカは高等部の生徒だから、強化合宿の内容はローズより詳しい。
あれは、卒検に落ちそうな生徒を鍛えて合格に導く、ハードなものだ。
行くダンジョンは学園敷地内ではなく、国内または国外の一般開放された場所にある。
一般ダンジョンの魔物の強さは様々だけど、平均的にみて学園内の練習用ダンジョンより強い。
「アズが怪我する事は無いだろうけど、狩れるのかな?」
「エカは合同稽古を見てないから想像つかないかもね」
「見てたらきっと、エカの鼻の穴、いつもの三倍に広がるかも」
「?!」
「エカ、顔」
冗談交じりにローズに言われて、エカは何度目かの変顔になって、ソナにツンツンつつかれた。
アズは、いつのまにそんなに強くなってたんだろう?
昼間の授業以外に夜も自主トレしてるのは知ってるけれど。
他の生徒よりずっと長い時間を、自らの鍛錬に費やしていたね。
その結果が、遂に出たって事かな?
「アズ、高等部に飛び級するならタワバ狩りに誘おうかな?」
エカ、飛び級間もないアズを最上級ダンジョンに連れて行く気?
「わたしもタワバ狩りに行きたーい」
ソナ、編入直後に最上級ダンジョンに行く気?
「そういえばチャデ先輩が、合宿から帰ったら一緒にダンジョンに行こうって言ってたよ」
「そうそう、ソナちゃんも誘うって言ってた」
チャデがどのダンジョンにソナを誘うのか、気になるのはボクだけ??