第49話:悪夢
真夜中、エカとボクはソナの声で目を覚ました。
「…ごめん…なさい…」
苦しそうな声がする。
夜の闇の中、エカは間近にあるソナの顔を見た。
猫人の目は暗闇でも普通に物が見える。
エカの視界に入ったソナの顔は青白く、目を閉じたまま苦しそうに息を吐いていた。
その息が、冬の森で見るように白くなったので、只事ではないと気付く。
「…わたし…死ぬから…もう…ゆるして…」
ソナは悪夢にうなされているみたいだ。
でもそれだけじゃない。
温かいところにいて、エカとくっついて寝てるのに、その身体がどんどん冷えてゆく。
「ソナ? 大丈夫?」
このままでは危ないと思ったエカは、起き上がってソナを抱き起こしながら呼び掛ける。
ソナは白い息を吐きながら寒そうに震え、胸を押さえて弱々しくもがいた後、急に動かなくなった。
エカはソナの胸に耳を当てて、鼓動が聞こえない事に気付いてすぐボクを呼んだ。
「フラム! 力を!」
腕の中で、糸が切れた人形みたいに力が抜けて、動かなくなったソナ。
せっかくこの世界で生きると決めたのに、このまま死なせたりはしない。
エカは再び、ボクの力を望んだ。
「任せて」
ボクは冬の森でしたように、エカごと翼でソナを包む。
蘇生する相手に何が起きたか、異変の原因が何か、ボクには分った。
しゃがみ込んで泣いている女の子。
黒い人影のようなものが4つ、それを取り囲んで責め立てていた。
影は口々に「死ね」と言い続けている。
冬の森で蘇生した時は、吹雪の中で泣きながら息絶えた光景が見えたけど、今回は違った。
ソナは、過去の記憶を夢で見てしまい、暴走した魔力が自らを攻撃してしまったんだ。
蘇生の為、ボクはこの悪夢をブッ飛ばす。
『その子を虐めるな!』
悪夢の中、ボクはエカに姿を変えて、黒い影たちに火球を放つ。
ボクの炎は聖属性だから、赤と金が入り混じった火球だ。
黒い影たちは火球が当たると、砕けて黒い粒子に変わって消え去った。
『君を虐めるヤツらはブッ飛ばしたよ』
『…だあれ…?』
泣いていた女の子は、こちらを見て首を傾げる。
ボクが変身したのは猫人じゃなく本来の姿、世界樹の民のエカだ。
『君を助けに来た者だよ』
女の子の前に跪いて手を差し伸べると、やはりビクッとして少し後ずさる。
『怖がらないで。この手は君を護るものだから』
『…わたしを…まもってくれるの…?』
エカの姿をしたボクは、微笑んで手を差し伸べ続ける。
その手を怖がらずに、取ってほしいから。
女の子が、恐る恐る近付いて来た。
『おいで。君を苦しめる者はもういない』
『…わたし…生きていてもいいのね…?』
ようやく、女の子は手を取ってくれた。
その手を引き寄せて抱き締めても、女の子は怯えなかった。
『俺は、君に生きてほしいと思うよ』
エカが言った言葉を再び告げる。
それが、ソナを悪夢から解き放つ力になった。
身体が温かくなり、心臓が動き始め、大きく息を吸い込んで呼吸が戻ると、ソナは目を開けた。
「…エカ…?」
「…ソナ、もう大丈夫だよ…」
「…ありがとう…」
フッと意識が戻ったら、本物のエカに抱き締められていたソナ。
彼女はホッとしたような顔をして、嬉しそうに笑った。