第47話:カニナベとハシ
ソナがお城に来た日の夕食は、異世界人が伝えたカニナベという料理だった。
王家が買い取った巨大タワバの肉が、早速調理されて食卓に並んでる。
王宮にはニホンから来た異世界人が伝えたナベモノという種類の料理があって、カニナベはその1つらしい。
大鍋にイベル地方で穫れるタワバ肉と、オトンヌ地方で採れる野菜と、エテル近海で採れるコンブを入れて、火にかけながら皆で取り分けてゆく。
取り皿代わりのお椀に酸味のあるタレが入っていて、それに付けて食べる料理だ。
タワバ肉は透き通っているのが加熱されて、白くなったらすぐ食べられるよ。
「えっ? これエカたちが狩ったの?」
鍋に入ってるタワバ肉を手に入れた経緯を聞いたソナはビックリだ。
「魔法を覚えたら、ソナも一緒に狩りに行けるよ」
「頑張る!」
タワバの美味しさは、ソナのヤル気もUPしたみたいだよ。
「日本じゃないのに、お箸があるのね」
「ここにはニホン人がよく来るから、ハシを用意してあるニャン」
食卓に用意されたハシを、不思議そうに見詰めるソナ。
王様が、アサケ王国にハシがあるワケを話してくれた。
「ハシは手先の細やかな動きが必要だから、武術や魔法の技術を上げるのに良いんだよ」
「そうなの? じゃあ過去の記憶は忘れるけど、お箸の事だけ覚えておくね」
エカがアドバイスしたら、ソナは記憶の中にハシは残す事に決めたみたいだよ。
食後、エカは着替えを取りに学生寮へ向かった。
ソナはエカから離れようとしないから、一緒に転送して連れて行く。
部屋に戻ったら、珍しくアズと出くわした。
「あれ? お城に泊るんじゃなかった?」
キョトンと首を傾げるアズは訓練用の道着姿で、背中に剣を背負っていた。
多分、これから夜間訓練に行くところなんだろうね。
「着替えを取りに来たんだよ」
答えたエカの隣に寄り添うソナは、アズの顔をじ~っと見つめてる。
「…エカと、似てる…?」
「双子の弟だよ」
呟いたソナに、エカは教えてあげた。
「アズと呼んでいいよ。よろしく、ソナ」
そう言うと、アズは握手ではなく長いシッポをソナに近付けた。
手を近付けると怖がるという説明を受けていたから、気を使っての行動だ。
「わたしを知っているの?」
差し出されたシッポにそっと触れて、ソナは聞く。
「話は聞いたよ。エカは魔法の天才だから、いい先生になると思う」
シッポでソナの手を撫でて、アズは答える。
その後すぐ、出かけてくると言ってアズは部屋の転送陣の向こうへ消えた。
「エカは魔法使いで、アズは剣士?」
「うん。今はまだ初等部で訓練中だけど、いつか強い剣士になる子だよ」
アズが背負っていた剣に気付いたソナが聞く。
今頃懸命に自主トレしてるだろうアズを思いつつ、エカはそう答えた。