第38話:冬の森へ
「…遂に、タワバがやってきた…」
冬の森に入ってすぐ、エカは感動して呟いた。
入学前から楽しみにしていたタワバ狩り。
上級検定をクリアしたエカたちは、最上級ダンジョンに挑む事が可能になった。
「タワバ、タワバ、まちかねタワバ♪」
「エカ、嬉しいのは分ったからどんどん先に行かないで」
粉雪を蹴散らしながら、はしゃいで進むエカに、クロエが苦笑しながら注意した。
「は~やく食べたい、美味しいタワ…ぶぁっ?!」
こんもり雪が積もった森の中、ゴキゲンで歩いていたエカがいきなりスッ転んだ。
衝撃でサラサラの粉雪が舞い上がる。
「ほらぁ、だから言ったじゃない」
「ハハハ、エカは頭良いクセにドジだな」
後方でマリンがボヤき、チャデが爆笑した。
「つ、冷たい…って、えぇっ?!」
転んだエカが笑いながら立ち上がりかけて、盛大に驚いた。
直後、慌てて雪をかき分け始める。
「おいおいどうした?」
「何か見つけたの?」
後方から追い付いて来たパーティメンバーが問いかける。
「えっ…?!」
「な…何…?!」
一同、エカが雪の中から掘り出したモノを見てギョッとした。
木の根か何かあったのかと思ったんだけど。
エカがコケた原因は、そんな物じゃなかった。
雪の中に埋もれていたのは、目を閉じてピクリとも動かない女の子。
猫人ではなく、世界樹の民や異世界人のような姿をした少女だ。
着ているのは薄い布地のワンピースで、水が凍結するような冬の森には向かない。
「…転移した異世界人か?」
ダイキチさんが近付いて来て言う。
「…凍えて心臓が止まったみたいね…」
マリンが手をかざして回復魔法を使ってみた後、溜息をついて首を横に振った。
エカの腕から伝わってくる女の子の体温は、雪と変わらないくらい冷たい。
動かない身体はガチガチに硬くなってる。
この子は、一体いつからこの子はここにいたんだろう?
「フラム、出てきて」
エカに呼ばれて、ボクはその右手から外に出た。
「完全蘇生の力、今日死んだものなら効果あるよね。 試してもらえるかな?」
「OK」
主の願いにより、ボクは不死鳥の姿と力を解放した。
ボクは復活の力を持つ召喚獣。
主が老衰以外の死を迎えた時は、例え肉体が消滅していても再構成して健康な状態で復活させる。
それとは別に、異世界人が稀に持つ完全蘇生と同様の力も持ってるんだよ。
女の子を抱いているエカごと、翼で包む。
不死鳥の炎は復活の力、それが及ぶ条件を満たしていれば、死者は蘇る。
他のメンバーは、どうなる事かと静かに様子を見ていた。
「…間に合ったみたいだ」
ホッとしたようにエカが言う。
その腕の中、女の子の身体は氷のように冷たく硬直していた状態から、眠ってる時のように温かく脱力した状態に変わった。
「ちょっと医務室まで行ってくるよ」
「おう、ここで待ってるから行ってこい」
エカは異空間倉庫と連動して覚えた空間移動魔法を起動して、医務室へ向かった。