第37話:森の中で
「アズは、森に来て何してるの?」
「いつも夜に来るぞ。転送陣から出て来て、元の姿に戻って森へ走って行くから、運動しに来てるのかもな」
持って来たカモカモ汁を一緒に食べながら、エカとジャスさんが話す。
異空間倉庫で保管していたカモカモ汁は、出来立てそのままに美味しい。
ボクたち召喚獣は、それぞれの主からお裾分けを貰ってカモカモ汁を味わった。
『このお肉、脂身が美味しいね』
『お野菜とスープもコクがあっていい味だね』
念話でそんな会話をする召喚獣たちは、今日も平和で仲良しだ。
ジャスさんやフィラさんの召喚獣たちも、カモカモ汁が気に入ってくれたよ。
「お、これ美味いな」
ジャスさんもカモカモ汁を気に入ったみたい。
「エカが材料とレシピを教えてくれたから、今度うちでも作ってみるわ」
フィラさんも味の再現に意欲的だ。
そして、夕食の片付けが終わる頃、アズがいつも来るという時間になった。
「そろそろ来る頃だぞ」
ジャスさんが窓を指差したので、エカはそちらに視線を向ける。
窓の外にある転送陣から、青い毛並の仔猫人が現れるのが見えた。
仔猫人は駆け出しながら、世界樹の子の姿に変わってゆく。
青い髪の子供が、夜の森の中へ走って行った。
「アズ、図書館通いかと思ったら、こっちに来てたのか」
窓の外をそっと眺めながら、エカは呟く。
森の中へ入ってゆくアズは、剣を背負っていた。
「そっか。猫人姿と元の姿では、身体を動かす感覚が違うものね…」
エカは、なんとなく分ったみたい。
以前、アズは猫人の身体になった時の感覚を、軽くて動きやすいと言ってた。
その状態で体育学部の授業を受けてるから、猫人としての動きしか分からない。
アズは、元の身体ではどんな感じか知ろうとしてるんだろうね。
頭の中でイメージして発動出来る魔法とは違い、武術は身体能力の違いが影響する。
飛び級するほど進歩したエカとは対象的に、アズは普通の生徒の2倍練習しながら進んでたんだ。
「アズは睡眠はちゃんととってるの?」
「いつも夜明け前には帰って、シャワー浴びて寝てるよ」
「なら、大丈夫ね」
フィラさんは、アズが無理してないか心配だったみたい。
寮での生活をエカから聞いて、ホッとしていたよ。
「アズの【完全回避】は状態異常も回避するからな。病気になる事は無いさ」
「心配する事が無いから逆に心配なのよ」
ジャスさんが苦笑して言う。
フィラさんの心境は複雑みたいだよ。
勇者を生み出す種族、世界樹の民。
創世神から魔法の才を貰ったエカと、完全なる回避の力を貰ったアズ。
2人は今はまだ、成長途中だ。
エカの飛び級でアズが焦らず、自分のぺースで進んでくれる事を祈るよ。