第1話:双子の赤ちゃん
───海の向こう、世界の果て
隠された地に、世界樹は根を下ろす
根を張り、枝を広げ、1つの木は森に変わる
その森を守るのは、千年の時を生きる者たち
それは、神が創りし世界樹の民
世界樹の民は猫人の時代の守り人
猫人の世界を守護する役目を神に与えられた一族
邪悪が世界を脅かす時、世界樹の民に双子が生まれる
双子はそれぞれ異なる力を持ち、邪悪を滅ぼす勇者となる───
アサケ国立学園図書館禁書【世界樹の民と双子の勇者】より
ボクの御主人様には、双子の弟がいる。
その弟くんとは、後に御対面させてもらったよ。
ボクの孵化の時は、ボクが間違って主と認識しないように離されてたんだって。
鳥系の神獣は、タマゴから出て最初に見るもの触れるものを主と認識するからね。
目が覚めて、お母さんのお腹に居た時からずっと一緒の兄弟がいないと気付いたエカ。
不安になって大泣きし始めた。
「ほにゃあ! ほにゃあ! ほにゃあ!」
…おぎゃあって泣くんじゃなかったっけ? 赤ちゃん…
エカの泣き声はちょっぴり個性的だった。
とりあえず、ボクがあやしてみよう。
『エカ、泣かないで。ボクが傍にいるよ』
ボクたち神獣は、主にだけ聞こえる声で話しかける事が出来るんだ。
「………?」
声が聞こえたエカがキョトンとして泣き止んで、仰向けに寝ている体勢でモゾモゾと手足や頭を動かしてる。
『ここだよ』
枕元に座ってるボクは、嘴でエカの髪を咥えてチョイチョイと軽く引っ張り、居場所を伝えた。
ボクに気付いたエカはこちらを見て…
「???」
…鼻の穴広げて真顔になった。
え、なにその変顔。
エカ、せっかく整った顔立ちなのに台無しだよ?
後から知ったけど、それはエカが驚いたり動揺したりした際の表情だった。
「ほにゃあ! ほにゃあ! ほにゃあ!」
部屋の扉の向こうで、似たような泣き声が聞こえ始め、だんだん近くなってくる。
「ほーらエカ、アズを連れて来たわよ~」
そう言いながら、部屋の中に赤ん坊を抱いた女の人が入って来た。
赤ん坊も女の人も、鮮やかな青色の髪と瞳をしてる。
あの色は確か、神獣・福音鳥の御主人様の証。
エカの隣に青い髪の赤ちゃんが寝かされると、その子もピタッと泣き止む。
アズと呼ばれていた子の産着の胸元がモソモソ動いたと思ったら、青い小鳥がヒョッコリ顔を出した。
やっぱり、福音鳥だ。
エカの双子の弟の名はイオ・アズール・セレスト、愛称はアズ。
彼は幸運をもたらす神獣、福音鳥の御主人様になっていた。