第33話:カモカモの蹴り
翌日、エカたちはエアの試作品、支援の飴を持って再び豊穣の洞窟を訪れた。
「グワッ!」
「ハッハッハ! いい蹴りだ」
またチャデがカモカモ捕まえて遊んでるよ。
但し、昨日と違って流血してるけど!
「チャデったら、わざわざ怪我しに行く事ないじゃない」
文句を言いながら、マリンが回復魔法をかけてあげてる。
支援の飴を使う前に、チャデが素のダメージを知りたいとか言い出して、飴を食べずにカモカモをワシづかみして、わざと蹴られた。
昨日はバナナケーキ効果が狩り終了まで続いたので、本来のダメージを知らない。
支援無しで食らった蹴りは、上級ダンジョンの魔物なだけあって、頑丈なチャデでも流血だ。
「ったく、体育学部らしいアホだな」
ダイキチさんが苦笑して言う。
そういえば、ダイキチさんはどの学部にいたんだろう?
「そう言う先輩も元体育学部っスね」
支援の飴を口に放り込んで、チャデがニヤッと笑う。
「今も昔も体育学部はアホばっかりさ」
同じく飴を口に放り込んで、ダイキチさんもニヤッと笑った。
…似た者同士?
「体育学部って、頭の中まで筋肉が詰まってる人ばっかりね」
「あ、でもエカの弟くんは、ちょっと違うみたいよ」
苦笑するクロエに、マリンが言う。
マリン、どっかでアズを見たのかな?
「体育学部の子って図書館なんか寄り付かないのに、青い毛並の子を何度か見かけたわ」
「それ、前に見たっていう神霊っぽいモノじゃないか?」
傷を治してもらったチャデも会話に加わる。
「ううん、図書館の利用者名にも載ってるの。アズール・セレストって、エカの双子の弟くんでしょ?」
「うん。アズは本好きだよ」
マリンに聞かれて、エカが頷く。
アズはエカと違って魔法の才には恵まれてないけど、読書はエカより好きなくらいだ。
もしかして毎晩いなくなるのって、本を読みに行ってるのかな?
「そういや初等部の朝稽古を見たんだが、青い毛並の奴には誰も攻撃当てられねえのな」
「アズは生まれつき回避スキル持ってるから、小さい頃から攻撃は全然当たらないよ」
エカと話しながら、チャデがまたカモカモをつかみ獲りしてる。
「グワッ!」
「ハハハッ! もう効かないぜ」
カモカモが怒って蹴りを入れるけど、飴の支援効果でチャデは無傷だ。
「こりゃ中ボスも楽勝だぞ」
ダイキチさんがつかみ獲りしたカモカモの額を剣の柄で叩いたら、ジタバタしていたカモカモがクタッと動かなくなった。
「むしろ終点まで行けるな。中ボスを倒してその先に進んでみよう」
ダイキチさんの提案で、エカたちはまずは中ボスに挑んでみた。
「グワグワグワッ!!!」
「お~っ、蹴りの連続技とは凄いな」
雑魚カモカモよりデカイ中ボスは、3回蹴りを連続した後、後ろに身体を回転させて飛び蹴りをしてくる。
その独特の蹴りは、異世界人がサマーソルトキックと呼んだそうだよ。
身体が大きくて重量のあるチャデだからその場に踏みとどまれるけど、エカや女の子たちだったらフッ飛ばされてるね。
「落雷!」
チャデがスッと横へ避けたタイミングで、エカが雷属性攻撃を仕掛けると、中ボスカモカモは動かなくなった。
「上級合格だな。これなら終点ボスもいけるぞ」
ダイキチさんから上級ダンジョン検定合格をもらい、エカたちは初めて終点ボスに挑む事になった。