第30話:秋の森の音楽会
「わぁ~葉っぱが綺麗~」
「この森が一番華やかね」
クロエとマリンが観光に来たみたいに盛り上がってる。
赤や黄色に色付いた木々が目を楽しませてくれる、秋の森。
ここにあるダンジョンは、上級レベルだ。
「あれ? なんか声が聞こえる」
「そういえば音楽科の子たちがコンサートを開くって言ってたわ」
「魔物に襲われないか?」
「今年は初等部に優秀な防壁使いがいるから平気みたいよ」
「お? それは見に行った方がいいな」
森に入るとすぐ聞こえてきた、多くの人が集まってるっぽい声。
エカ、クロエ、チャデ、マリンにダイキチも会話に加わり、声が聞こえる方へ向かった。
「いらっしゃい。ようこそ、森の音楽会へ」
薄紅色の仔猫人が、森の中に机を置いた受付で来客を出迎えてる。
この子、すご~く見覚えあるぞ。
「…って、エカ?」
「ローズ? あ、もしかして優秀な防壁使いって…」
「優秀かどうかは知らないけど、防壁使いは私だよ」
受付にいたのは、猫人姿のローズだった。
そういやローズ、魔法協会の抽選会で上位聖魔法の【防壁】を当ててたね。
「会場全体に張るから、どこに座ってもオーク1匹襲ってこないわ」
「その範囲の広さは、優秀と言っていいと思うよ」
ニコニコして言うローズに、エカが苦笑して言った。
「みなさんようこそ森の音楽会へ。演奏の前に防壁を張りますね」
司会は多分、高等部の人かな?
隣にローズがいて、司会の人と目で合図して防壁を展開した。
聖魔法特有のキラキラした白い光の粒子が空中に舞う。
そして始まる、秋の森の音楽会。
きっとこの日の為に毎日一生懸命練習したんだろうね。
演奏は滑らかで、奏でる音は心を安らがせる。
曲の合間に、初等部の子たちがお茶とお菓子配ってくれた。
「はいこれ、エアと私が作ったんだよ」
エカたちのところにはローズが配りに来てくれた。
「ありがとう~間違いなく美味しいやつだ」
「ほおほお、そりゃ楽しみだ」
その味を知るエカが嬉しそうに言うと、チャデが身を乗り出してテーブルに置かれたお菓子を眺める。
ボクはエカの膝に乗せてもらって、お裾分けをご馳走になったよ。
今日のお菓子はエアが得意なバナナケーキだった。
バナナの自然な甘さと香り、上にちりばめられたカリカリのナッツも香ばしくて美味しい。
優しい音色に心を満たされ、美味しいお菓子にお腹も満たされる。
音楽会が終わると、エカたちは心も体も快調でダンジョンに向かった。