第29話:回避は神、防御は紙
幸運の一撃を習得してから、青空洞窟攻略難易度は一気に下がった。
どのくらい下がったかって言うと………
「おりゃあっ!」
「ピイィーッ!」
………チャデの斬撃一閃で中ボスを倒せちゃったくらい。
「えっ?!」
「私達、出番無し?」
追い打ち予定で構えてたエカとクロエが、ポカンとしちゃったよ。
「あはは、ハウカは回避が凄い代わりに防御は紙なんだよ」
OBのダイキチさんが笑いながら言う。
エカたちの引率担当OBとしてすっかり馴染みになったダイキチさんは、キジトラという焦げ茶色っぽいシマシマ模様の毛色で、大柄でガッシリした体格の猫人だ。
「回避が神で、防御は紙?」
鼻の穴広げて真顔になりつつ、エカは呟く。
「それ、俺の同期も言ってたな」
そう言うダイキチさんがまた笑った。
「秋の森へ進む前に、夏の森で憩いの場になってる洞窟を教えてやるよ」
「え? ダンジョンに憩いの場なんてあるの?」
「夏夜の夢洞窟ってところでな、星空と光る植物があって幻想的なんだ。魔物は逃げるだけで襲ってこないから、寝転がってノンビリ出来るオススメの休憩所さ」
予想より早く検定の戦闘が終わり、時間が余ったエカたちは夏の森をゾロゾロ歩いて行った。
ダイキチさんオススメの休憩所は、思ってた以上に綺麗な風景が広がる洞窟だった。
通路は、左右の岩壁に光る石がはえていて、ほんのり明るいから光魔法の照明要らず。
通路に現れるのは、真っ白い身体と鳥みたいな翼、1本の小さな角を持つウサギに似た生き物。
それは魔物ではなく夢幻種という生き物で、こちらの姿を見ただけで逃げてゆく。
洞窟の奥は広くなっていて、光る木々と草、天井には満天の星空が広がる幻想的な風景が広がっていた。
「ここで草の上に寝転がるといいぞ」
ダイキチさんはそう言って、自ら寝転がってみせる。
エカたちも真似して寝転がった。
リーン、リーン、と鈴のような音がする。
寝転がった光る草の中から、小さな緑の光がフワァッと幾つも舞い上がった。
「しっかしお前ら進級ぺース早いよな。他の生徒たちはまだ初級をクリアしたくらいだぞ」
「エカなんて2ヶ月で中級クリアよ」
ダイキチさんが言うように、実習開始から3ヶ月経った時期、平均ぺースならダンジョン初級検定を受ける頃だ。
「お前らなら、卒業したらA級冒険者くらい余裕でなるかもな。俺の自慢にしておくぜ」
ダイキチさん、嬉しそうに言う。
自慢にすると言われて、エカたちも嬉しそう。
「卒業したら、このまま冒険者パーティ登録してもいいかもね」
クロエが微笑んで言う。
ダンジョン実習パーティは卒業後そのまま冒険者パーティを組む事が多いそうで、ダイキチさんも在学時のメンバーと組んでるそうだよ。
エカたちも、このまま冒険者パーティになるのかな?