第26話:夏の森の青空洞窟
翌日、エカはパーティメンバーや付き添いOBと共に、夏の森のダンジョンに入っていた。
青空洞窟と呼ばれるそこは、洞窟の中とは思えない、天井の代わりに澄み渡る青空が見えるダンジョンだ。
「………?!」
びっくりしたエカ、久々に鼻の穴広げて真顔になる。
「エカってば、なあにその変な顔」
「せっかくの美少年が台無しよ」
見てしまったクロエとマリンが吹き出した。
「演劇科の喜劇で使えるんじゃないか?」
チャデも爆笑したよ。
…エカ、そのクセ直さないと彼女出来ないんじゃないかな?
しばらくみんなで不思議な空を眺めた後、洞窟の奥へ進み始めた。
空?があるからか、この洞窟は鳥系魔物が多い。
ちょっと厄介なのがリロデルという黒い小鳥の姿をした魔物で、高速で飛び回るので攻撃がなかなか当たらない。
「こりゃ狩るのは至難の業だなぁ」
チャデが珍しく盾を出して、リロデルたちの体当たり攻撃を防いでいる。
素早く飛び回る小鳥たちは回避が高く、盾に阻まれるとスイッとUターンして激突を避けてしまう。
魔法を撃っても躱されてしまい、火力の2人も苦戦している。
「あ! また避けられた! も~っ!」
範囲魔法も回避されてしまい、クロエが珍しく膨れっ面で言う。
「…この当たらなさ、アズを思い出すなぁ…」
エカはふと双子の弟を連想して苦笑した。
生まれながらに完全回避というユニークスキルを持つアズは、兄弟喧嘩になると非常に厄介な相手だ。
物を投げてもパンチしてもアズには一切当たらない。
そもそも運動能力も差が大きく、物理的な喧嘩になるとエカは全く勝てなかった。
「あ~っ! こら! 逃げるな~っ!」
サーッと離れてゆく小鳥たちに、チャデが叫ぶ。
結局、リロデルが逃げ出して戦闘終了となってしまった。
「このダンジョンの課題は、まずはリロデルに攻撃を当てられるかが勝負なんだ」
引率のOBが言う。
「命中UPの支援魔法が必要そうねぇ。今日は一旦帰って、図書館へ魔導書を探しに行く方が良さそうだわ」
マリンが溜息混じりに提案し、パーティは青空洞窟から撤退した。
「そういや俺の弟がエテルの抽選会で命中UPっぽい魔法を貰ってたよ」
「エテルの抽選会で魔法…ってそれ、100年に1度出るか出ないかの特賞じゃない?!」
「あ~、抽選会のお姉さんがそんな事言ってたかも」
「特賞当てた青い毛並みの子がいる~ってウワサ、エカの弟だったのね」
帰り道、そんな会話をしながら夏の森を歩いてゆく。
水中を泳ぎ回る魚を一撃で仕留めたあの魔法があれば、リロデルも狩れるかもしれない。
エカはそんな事を思ったりしていた。
残念ながら水神の必中は、この世に1人だけの魔法だから、他の人は今は習得出来ない。
エカたちは図書館へ向かい、代わりになる支援魔法を学ぶ事にした。