第11話:特賞の賞品
『ベノワ、アズはどこへ連れて行かれたの?』
アズを乗せたデルフィナが水平線の向こうに消えてしまった後、ボクはベノワに念話を送ってみた。
『真っ青な海しか見えない~…あ、島が見えてきた。視覚共有するね』
すぐにベノワから返事がきた。
そして、ベノワが見る風景が、ボクの心に送られてくる。
念話は召喚獣が偵察などの際に主と連絡をとる能力。
召喚獣同士でもこうしてやりとりが出来る。
ベノワから送られてきた風景は、晴れ渡る空に穏やかな青い海、前方に見えてきたのは小さな島。
デルフィナはその島に向かって進んでいて、だんだん近くなってくる。
やがて、島の岸壁に洞窟が見えてきて、そこへ入ってゆく。
洞窟の上の方は岩に隙間があるようで、光が柱のように差して明るい。
洞窟の中でチャプチャプと音を立てる水は、綺麗な薄青色だ。
「ティアマト様、当選者をお連れしましたよ」
アズを乗せたまま、デルフィナが呼びかける。
前方の水面が渦巻いて、その中心から水の龍が現れた。
ボクやベノワには、それが水の神ティアマトだと分る。
「特賞なんて100年ぶりだねぇ」
楽しそうに目を細めて、ティアマトが笑いかける。
「………」
「受け取りなさい、これが特賞の賞品、唯一無二の魔法【水神の必中】だよ」
びっくりし過ぎて言葉が出ないアズ。
その額に、ティアマトの額から湧き出た青い光の玉が近付き、入ってゆく。
「これで継承完了だ。その魔法は物を投げたり何かを攻撃したりする時、命中させたい時に使いなさい」
「海で魚を獲ったり、森などで狩りをする時に役立ちますよ」
ティアマトとデルフィナに説明されて、ようやくアズも何を貰ったか理解したらしい。
「ありがとうございます!」
「ふふっ、世界樹の民ならきっと役立つ魔法だろう」
丁寧にお礼を言うアズ。
青い仔猫人の姿なのに、水の神には正体がバレてるみたいだ。
「?!」
「大丈夫、私は街の者には言わないし、デルフィナも黙っていてくれるよ」
「はい、事情は分かってますよ」
焦るアズに、ティアマトとデルフィナは穏やかな口調で言ってくれた。
神様や精霊には猫人に変身してても正体が分る。
でも、彼等がそれを口外する事は無い。
世界樹の民の役割を知ってるから、神族も精霊族も協力的なんだよ。
その後、またデルフィナに運ばれて、アズは港へ戻って来た。
「おかえり! 何を貰えたの?!」
「見せて見せて~!」
女の子たちが興味津々だ。
エカはボクからの視覚共有で見てたから、アズに聞く必要は無かったけれど。
びっくりしたんだろうね、鼻の穴広げて真顔になってたよ。
その日、アズは身体強化魔法を1つ習得した。