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第119話:回帰

日本に転生した5人の世界樹の民たち。

彼等が日本で何をして、どうやって戻ってきたのか、ボクには分からない。

ボクの意識が戻ったのは、エカの転生者が火属性の卵から不死鳥を孵化させた時だったから。


日本人だという転生者は、子供の頃のエカそっくりだった。

属性卵をくれたのはアズの転生者で、そちらも子供の頃のアズそっくり。

ローズも、エアも、ロコの転生者もいて、みんな子供の頃の姿になっている。

蛇将軍と呼ばれる魔族を倒しに日本へ転生した筈なのに、彼等はこちらの世界に転移させられていた。


エカたちの魂が抜き取られて、地球の創造神(かみさま)の力で日本に転生して20年。

蛇将軍が潜む会社に就職した5人は、760人の社員やアルバイトたちと共に転移させられたらしい。

総勢765名の大規模な転移には、社内に潜伏していた蛇将軍も含まれていた。

転移後に正体を現した蛇将軍は、魔族拘束用の生物に縛られて、魔工学部の教師となったルイが預かった。


その経緯はアズの転生者が手記を書いて、禁書の間に保管したそうだよ。

アズの転生者も完全回避と神霊を視る力を持って生まれていた。



分かってはいたけれど、転生したエカたちに前世の記憶は無かった。

名前は逆に日本でのものを忘れていて、前世の名前だけ覚えているみたいだけど。

召喚獣の名前は憶えていたというよりは、魂にボクたちが溶け込んでいるから分かったんだろうね。


当代のアサケ国王ナムロ様は、ロコを除く転生者4人と聖者になった転移者を世界樹の里へ案内してくれた。

澄み渡る青空の下、広がる緑の森……

それを見た4人の転生者が涙を流したのは、魂が還るべき場所を覚えていたからかもしれない。


世界樹の根元に集った転生者たちに、創造神(かみさま)は日本とこちらの世界どちらを選ぶか問いかける。

向こうで命を終えての転生ではなく、生きたまま飛ばされた転移だったから。

でも何故か、転生者たちは日本人の身体ではなく、世界樹の民の身体に変わっていた。

日本へ戻るには身体の構造を組みなおす必要があり、その経緯でこちらで経験した事は全て忘れるらしい。


ロコは日本へ行く道を選ぶ。

彼女は元々こちらの世界に何も未練は無く、日本での楽しみがあるから。


他の4人は、こちらに留まる道を選んだ。

記憶は無いけれど、こちらの世界に家族がいるから。



「エカ、お前にはあと2人、大切な家族がいるんだよ。逢いに行くかい?」


こちらの世界に留まる事を決めたエカに、ジャスさんとフィラさんは聞いた。


「逢いたいです」


即答したエカの転生者を連れて、ジャスさんたちは森の片隅に建つ小さな家を訪れた。


アズの転生者も興味津々でついて来ようとしたんだけど、ベノワに連れて行かれてしまった。

多分ベノワは、アサギリ島へ行ったんだろうね。



「……エカ……なの……?」


その家には、少し困惑しながらエカの転生者を見つめる赤い髪の女性がいた。


「……えっ? こんな小さい子が、父さん……?」


同じく困惑する赤い髪の男性は、まるでエカのように鼻の穴広げて真顔になる。


待っていたのは、20年前と変わらない姿のソナと、すっかり大人になっていたリヤン。

転生前のエカそっくりな青年になったリヤンは、母の心の支えとなりながら父の帰りを待っていたんだ。


「エカ、ここに20年前のあなたの心と記憶がある。今のあなたはこれを欲しいと思う?」


ジャスさんたちとリヤンがそっと離れて2人きりになると、ソナは指輪を見せて問いかける。

前世の記憶が無い転生者は、ほとんど別人だ。

ソナの本音を言えば指輪を取り、元のエカに戻ってほしいけれど、押し付けるつもりは無い。


「ソナ……さんは、前世の俺にいてほしいと思いますか?」


姿は子供だけど中身は20歳の転生者は、大人びた口調で問いかける。


「もちろんよ。でも、あなたの意志を優先するわ」


どこか他人行儀なエカを見て寂しそうにしながら、ソナは答えた。


「こんな子供の姿でも、夫として愛してくれますか?」

「今は子供の姿でも、すぐ追い付くから平気よ。世界樹の民は成人後はほとんど変わらないの」


そう答えたソナに、転生者は手を差し伸べた。


「じゃあ、前世の心と記憶を下さい。俺はこの世界で、俺を必要としてくれる人の為に生きたいから」


その言葉を聞いて、ソナは泣き笑いを浮かべて転生者を抱き締める。

渡された指輪にエカが指を通すと、サイズが変化してピッタリになった。


転生者の中に、転生前の記憶が一気に流れ込む。

膨大な記憶の本流に押し流されて、転生者が意識を失う。

ソナは倒れかかる子供を抱き締めた。


「ありがとう……エカ……愛してるわ……」


ソナは気を失っている転生者の額にキスをして、優しく微笑んだ。

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