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第112話:親子

「この子、俺の子だった」

「へ?!」

「ど、どういう事かニャ?!」


ルイをお姫様抱っこして世界樹の中から出てきたアズの第一声に、エカとナムロ王様が困惑する。

それから、アズとルイが知った事を聞いて、アズの発言の意味を理解した。



実の子……正しくはその生まれ変わりと知ってから、アズのルイに対する溺愛っぷりは凄かった。

お城で暮らすルイに差し入れを持ってきたり、ルイがねだらなくてもお姫様抱っこしたり頬や額にキスしたり。


「学校の授業で必要な素材があれば獲ってきてあげるからね」

「は、はい……」


我が子の授業に使う素材の提供も惜しまないアズは、竜でも余裕でソロ狩り出来る特S級冒険者。

一方でアズに惚れかけていたルイは、前世のお父さんだと知ってしまい困惑気味だ。



「お母さんと話をしに行こう」


学園が長期休暇に入ると、アズはルイを誘ってアサギリ島に向かった。

世界樹の中で保管されている亡骸ではなく、この世に残されたルルの霊に会わせてあげるらしい。

アズが見せたいものがあるらしくて、エカとボクも同行したよ。

エカとボクにとっては、魔王討伐隊として行って以来のアサギリ島訪問だ。



アサケ大陸北東の海上に浮かぶ、アサギリ島。

草も生えない不毛の地で、かつては魔族と魔物がいる危険な場所だったけど、アズとルルが住むようになってから雰囲気が変わったと聞いていた。


「どう? ちょっと風景良くなっただろ?」

「ちょっとっていうレベルじゃない気がするよ」


エカがツッコミを入れる通り。

岩と土しか無かった大地が、一面の花畑に変わっていた。


「……綺麗~……コスモス畑みたいだ……」


元の世界にある花畑を連想したのか、ルイが呟いた。

咲き乱れる花々は種類も色も様々で、単色の花畑よりも華やかに見える。


「世界のあちこちから集めて植えたんだよ」


ベノワの背中の上から花畑を見下ろして、穏やかな声でアズが言う。


「最初はルルが花を育てようって言って、2人で行った場所から花を少しずつ持ち帰って植え続けたんだ。今はそれが自然に広がって咲いてるよ」


花々に慈しむような眼差しを向けた後、アズは花畑の中心にある小屋の隣に立つ、1本の木の近くにベノワを着陸させた。


「ルル、ただいま」


アズが声をかけると、瑞々しい緑の葉を茂らせる木の枝の間から、幻のように実体のない女性が現れた。

世界樹の中で眠る女性と同じ青いワンピース、長い黒髪と同じ色の犬耳とシッポ、開かれた黒い瞳は艷やかな宝石のように澄んでいる。


『おかえり、アズ。久しぶり、エカ』


念話が優しい波長で心に流れてくる。

精霊のように神秘的な雰囲気を漂わせて微笑むルルは、アズの隣にいるルイを見てハッとした。


『アズ、その黒髪の子は……?』

「ルルが異世界へ送った子だよ」


アズがルルの両肩に手を置き、微笑んで伝える。


『……よかった。生まれてきてくれて凄く嬉しい……』


その時浮かんだルルの微笑みは、切ないくらいに綺麗だった。


「……」


言葉の代わりに、ルイの瞳から涙が流れ始める。

何故泣いているのか、本人も分からない様子だった。

次々に頬を伝う涙が、地面に落ちて吸い込まれてゆく。


『日本のお父さんとお母さんは、どんな名前を付けてくれたの?』

「……る……【琉生(ルイ)】……です……」


問いかけられて、ルイは嗚咽しながらやっとの思いで答えた。


『素敵な名前、これからはルイって呼ぶね』


ルルがまた微笑む。


『……おかえり、ルイ……』


その【声】に呼応するように、周囲の花々から無数の花びらが舞った。


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