第110話:後日譚・異世界の少年
完全回復薬で一命を取り留めた異世界人の少年は、アサケ王国の慣例に従い、お城で保護される事になった。
「助けてくれてありがとうございます。日本から来た詩川琉生です。ルイと呼んで下さい」
エカたちに発見されたと聞いてお礼を言う少年は、やはり異世界転移者だった。
日本人特有の童顔で、中等部くらいの年頃に見えたけど、実際は高等部の年齢らしい。
「落ち着いたら学園に通うといいニャン。学費や生活費は王家が負担するからお金は心配しなくていいニャ」
かつてのソナと同じく、ルイも王家の養子という立場で国籍をもらい、生活する事になった。
「僕、機械いじりが好きなので、魔工学部に入りたいです」
ルイは適応力が高いらしく、すぐに学部を決めて馴染んでいった。
魔工学部で学び始めて1ヶ月ほど経った頃。
その後の様子を聞きに訪れたエカを見たルイが、何故か赤面してうろたえ始める。
「あ! エ……エカさん……すいません……でした……」
「ん? 何かあった?」
顔を真っ赤にして目を合わせないようにしながら謝るルイを見て、エカは首を傾げた。
何をそんなにうろたえてるんだろう?
「……え、えっと……その……な、習ったんです……」
「何を習ったの?」
エカは分ってなかったけど、ボクはなんとな~く察してしまった。
多分、習ったというのはあの授業の事だな。
「……エ、完全回復薬……です……」
「あ~、あれね」
そこでようやくエカも察した。
救命医療は全学部必修だから、習ったんだろう。
で、自分がそれを飲まされた事に気付いたんだね。
「……僕、目が覚めた時に口の中に甘くて少し苦い味が残ってたから、何だろうって思ってて……」
前髪で目を隠すように俯きながら、ルイは話す。
「……そしたら昨日、完全回復薬の使い方の授業があって、味見したら、同じだったんです……」
「飲まされたな、って分かっちゃったんだね」
俯いて真っ赤になっているルイを見て、エカは苦笑した。
エカも同じ経験してるから、気持ちは分るよね。
「まあでも、あれって医療行為だから、気にしなくていいと思うよ」
エカは以前の自分に言い聞かせた言葉を、ルイに言って慰めてみたりする。
「そ、そうですか……エカさんは気にしないですか?」
「うん。助けるための行為だからね」
ルイが気にし過ぎないように、エカは笑みを浮かべて答えた。
「わかりました。じゃあ、エカさんに助けてもらった思い出にしておきます」
「……え?」
開き直ったように微笑むルイに、エカはまた首を傾げる。
何かズレているような……?
「宮廷薬師の方から聞きました。エカさんが僕に完全回復薬を飲ませたんだろうって」
「えっ?!」
「エカさん綺麗だから……その……恥ずかしいけど、嬉しい……です……」
……どうしてそうなった?
『アズ~っ! すぐ来て!』
とりあえず、アズを呼んで話を聞く事にした。
「どうしたの?」
毎度の事ながら、エカが呼ぶとアズはすぐ来てくれる。
2人が並んだら、ルイが見惚れたようにポ~ッとし始めた。
「アズ、ルイを運んだ時、お城の人に何て説明したの?」
「エカから預かったって言っただけだよ」
アズに聞いてみたら、どうも説明が足りてなかったみたい。
それでお城の人たちもルイも、エカが発見して救命してアズに渡したと思っていたんだね。
「ルイ、君に完全回復薬を飲ませたのは俺じゃなくて、双子の弟のアズだよ」
アズを指差しながら、エカはちょっと慌てつつ説明する。
「……アズさん……ありがとうございました……眼福です」
「ん?」
うっとりした表情でお礼を言うルイの、言葉の最後辺りが何かおかしかった。
後に、ルイは魔工学部で様々な魔道具を発明し、その技術を世界各国から高く評価される事になる。
彼は学園に就職して、講師から教師へと昇格した。
同時に、実は男性が好きなのだと明かしたルイは、美形揃いの世界樹の民たちから軽く引かれたりもした。




