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第108話:後日譚・浄化された魂

創造神(かみさま)から与えられた役目を終えたアズは、学園を卒業すると世界を旅する冒険者になった。

飛び級して初等部の年齢での卒業となったアズは、既に勇者として知られていた事もあり、子供の身でギルド登録は特S級という扱い。

そんなアズの傍には、いつも1匹の黒い狼が付き従っていた。


「ルル、そっちは任せていいかい?」

「ウォン!」


アズと狼の連携は見事に息が合っていて、複数の獲物でも難なく仕留めてゆく。


物理の範囲攻撃、ナイフのように鋭い鱗を飛ばしてくる竜も、このコンビには楽勝だった。

おとり役のアズが竜の注意を引き、加速魔法をかけてもらったルルが音速で近付いて竜の喉元に牙を立てる。

アズが使う身体強化魔法は、学生時代の強化合宿でも竜を斃すのに貢献した事で一部にはよく知られていた。



「ルル、この店の串焼き美味しいよ。食べてごらん」


一緒に狩りに出た後、アズは様々な街の食べ物をルルに買い与える。

ケモミミ姿のルルを見た猫人たちは最初は驚いたものの、異世界人の一種と思ったらしくすぐに見慣れて気にしなくなった。


「うん! 美味しい!」


肉串などを頬張って喜ぶルルを眺めながら、アズはいつも満足そうに微笑んでいた。



6つの心臓を失った魔王は短命で、ルルはアズが26歳になる頃、その生が終わりに近付き始める。

野生の雪狼が5年前後しか生きられない事を思えば、20年も生きたルルは雪狼としてはかなりの長命だ。

それはおそらくアズの完全回避の効果で、怪我や病気をしなかったからだろうと動植物学部では推測していた。


「変身を解いたらもう人型になれないから、このままでいるね」


アサギリ島に建てた小さな家の寝室で、ケモミミ女性の姿になったルルは、アズの腕に身を委ねていた。

若い容姿を保っているものの、老衰で身体はほとんど動かせなくなっている。

少し体温が下がってきたルルの身体を温めるように、アズが抱き締めてあげていた。


「どんな姿になっても、俺はルルを愛してるよ」


そう言って微笑むアズが、ルルを子供ではなく恋人として見るようになったのは12歳の頃から。


ルルは自身の人型年齢をアズに合わせていて、体つきが女性らしくなった頃にその想いを告げた。

アズが最愛の相手からの告白を拒む筈は無く、以降は恋人として接している。


「転生したら記憶を失くすから、アズを愛する心はこの島に遺して逝くね」

「じゃあ、ここへ帰って来たら、いつでもルルに会えるんだね」


ルルは愛しい者だけに向ける優しい笑みを浮かべた。

アズも穏やかに微笑み返す。

ルルの魂は輪廻の流れに還るけれど、その心はアズの為に遺してくれるらしい。


「いつもここにいるからね。……アズ、愛してる……」


そう言って、ルルは残る力で両腕を動かし、アズを抱き締めて唇を重ねた。

しばらく口付けを交わした後、ルルの全身から力が抜けてゆく。

それを支えながら胸に耳を当ててみたアズは、ルルの心音が聞こえない事に気付いた。


愛する者の腕の中で命を終えた事は、魔王にとって初めてだった筈。

目を閉じたルルの顔には、幸せそうな笑みが浮かんでいた。



翌朝、アズはルルの亡骸を抱いて、世界樹の根元を訪れた。

ルルが亡くなってすぐ蘇生効果のある世界樹の花蜜を飲ませてみたものの、老衰での死には効かない。

一晩添い寝して息を吹き返す様子は無かったので、創造神(かみさま)に報告に来ていた。

報告にはルルの正体を知るエカ、ソナ、ローズ、エア、ロコも立ち会った。


『ルルは輪廻の流れに還りました』

『では、亡骸を世界樹に預けなさい』


創造神(かみさま)の指示でルルを世界樹の根の間に寝かせると、亡骸は吸い込まれるように消えてゆく。


『この魂は浄化されたようだ。もう世界を脅かす魔王にはならないだろう』


創造神(かみさま)が告げると、世界樹の枝に新たな魂の光が灯る。

それはいつか枝を離れて、生命として生まれてくる。

世界樹の根元に集まった6人は、祈りを捧げた。

いつか生まれてくる者が愛されて、幸せな時を過ごせるように……。

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