第106話:後日譚・愛歌鳥の聖女
世界樹の民でエカの幼馴染ローズ。
彼女の召喚獣は美しい歌声で人々に力を与え、傷を癒すという愛歌鳥の【ユズ】。
ローズはユズの羽毛と同じ桃色の髪と緑の瞳をもつ女の子だ。
彼女が歌う声にも癒やしの力が宿ってると分かったのは、学園卒業後の事だった。
15歳で学園を卒業したローズは多くの猫人たちを癒して聖女と呼ばれ、アスカ王国を護る世界樹の民となる。
「私、アスカ王国に行くわ。芸術と音楽の国と言われていて、うちの学部の卒業生に人気の勤務地なのよ」
芸術学部を卒業したローズは、そう言ってアサケ王国からアスカ王国を目指して旅立った。
ユズの背に乗って青空を飛翔する彼女は猫人変身を解いていて、世界樹の民である事を明かしている。
アサケ王国から海を越えた西方にあるアスカ王国。
到着した本人は普通の人として歌手を目指して行ったらしいんだけど……
「おぉ! 世界樹の乙女が我が国に!」
……王都の門前から大歓迎。
猫人たちにとって、世界樹の民は創造神の使いだから、当然の反応だね。
ローズは全然自覚が無かったみたいだけど。
その後、彼女が王都の音楽隊に加入手続をしに行ったら、宮廷楽士の偉い人が全力疾走で駆けつけて、是非王宮の歌姫にと懇願されてしまった。
どうしてこうなったの? って思いつつ宮廷楽団に入ったローズは、初舞台で歌声に秘められた力を発動する。
その癒やしの歌声はユズによって増幅され、王都全域に広がり、寝たきりで会場に来られなかった人も含めた全ての民を癒やした。
「奇跡だ!」
「聖女様!」
歌声で傷や病が治癒した人々は驚き、ローズを【愛歌鳥の聖女】と呼ぶようになった。
その歌の力、アサギリ島では防壁に専念していて使わなかったから、誰も知らなかった。
ローズが歌う事は学園でもよくあったけど、授業に来ている生徒は健康だったから、分からなかったらしい。
愛歌鳥のユズが身体強化と回復の力を持つ事は知られているけど、ローズの歌声に範囲回復効果があるとは、本人も気付いてなかったみたいだよ。
「武器や防具に魔法を付与するみたいに、この力も何かに付与して残せないかな?」
後に彼女はそんな考えを持ち、魔工学部の卒業生に依頼して特別な魔導具を造ってもらう事になる。
元々、魔工学部には異世界人がもたらした【保存媒体】という魔導具の技術があり、癒やしの歌声を保存する魔導具が開発された。
「いつか私がこの世を去っても、歌声が残ってみんなを癒してほしい」
それが、彼女の願いだった。
ローズの歌声はアスカ王都中心の時計台に仕込んだ魔導具に保存され、この国に疫病や災害が起きた際に人々を癒す力となった。