第105話:後日譚・結婚式
世界樹の民は成人するまでは猫人と似たペースで育つ。
猫人たちが成人となるのは20歳、エカたちも生まれて20年後に成人として認められた。
そこから先は大きく差が開く。
猫人たちの寿命は100年ほど、世界樹の民は1000年の命を持つ。
若い姿でいる年月がとても長い世界樹の民は、10分の1ほどの寿命の猫人たちを数世代見詰めてゆく。
エカとソナは、20歳になる年に世界樹の根元で式を挙げた。
「やっとこの時がきたね」
「ずっと楽しみにしてたわ」
結婚式の白い衣装を身に纏う、エカの肩にはボクが、ソナの肩にはルビイが、赤い小鳥になってとまっている。
成人したエカは随分と身長が伸びて、里の人々の中でもかなりの長身で細身の美青年になっていた。
ソナも随分と手足が長くなって、魅力的な大人の女性に成長している。
女性らしさが出てきた頃、ソナは相変わらず添い寝で熟睡するんだけど、エカは意識して眠れない夜が何日か続いたのは内緒。
式には世界樹の民の他、森に入る事が出来るアサケ王族たちも祝福に来てくれた。
「孫の晴れ姿を見られるなんて嬉しいねぇ」
白猫王太后ジャミ様は青い瞳を細めて笑みを浮かべた。
「母上ならひ孫の結婚式まで見られそうな気がするニャ」
三毛猫国王ナゴ様も嬉しそうに目を細めている。
「おばぁば、僕の結婚式も見てね!」
ひ孫と聞いて反応した三毛猫の仔猫人はナジャ、ナムロ学園長の息子だ。
「おめでとニャン、これはわが国からの贈り物ニャ」
「王国自慢の茶葉とお菓子よ。後で味わってみてね」
アカツキ王国からは国王ナギ様と宮廷魔導師ロコも来てくれた。
ロコは氷系の状態維持魔法で少女の姿を保っているそうで、今ではエカやソナの方が年上に見えた。
「ソナ、凄く綺麗だね!」
微笑みながら声をかけたのはローズ、エアも一緒にいてウエディングドレスに羨望の眼差しを向ける。
不死鳥のルビイを実体化させているソナの髪は鮮やかな赤で、純白のドレスやロングヴェールに映えて華やかに見えた。
「おめでとう、エカ、ソナ、2人に幸運を」
青い小鳥になったベノワを肩に、アズも祝福してくれた。
アズは双子だから髪と瞳の色以外はエカに似ていて、同じ細身で長身の美青年に育っている。
その肩から飛び立ったベノワが澄んだ声で囀り、青い羽毛を抜き取ってエカとソナに1枚ずつ落とした。
福音鳥の羽毛には幸運を呼ぶ効果があるので、祝いの場では特に喜ばれるよ。
祝福を終えるとアズは人々の集まりから離れ、大人しく伏せて待っている黒い狼のところへ歩いて行った。
雪狼の成獣となったルルはもうアズの懐には入れず、連れて歩く際は召喚獣のように傍らに寄り添っている。
狼はアサギリ島で見たような巨大なものではなく、アズよりやや大きい程度だ。
世界樹は神の祝福を示すように蕾が無数に現れて、、白く芳しい香りの花々が満開となる。
白い花は微かな光を放ち、花弁が舞い始めた。
『其方たちは生涯愛し合い、支え合い、喜びを共にする事を誓うか?』
創造神の念話が問いかける。
『『誓います』』
揃って答えた2人の上に、純白の花弁が雪のように降り注いだ。




