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第102話:魔王の大切なもの

ルルであり魔王でもある子供は、しばらく名残り惜しむ様にアズを抱き締めた後、背伸びして口付けすると軽やかに跳び下がって離れた。


「はい、もういいよ」

「?」


地面に仰向けに寝転がる子供を見て、アズもエカもキョトンとする。


「エカ、ボクを殺して」

「えっ?!」


可愛く微笑みながら頼まれて、エカはギョッとした。

でもすぐに、自分が何をしにアサギリ島まで来たかを思い出した。


上空で待機するのは、魔王討伐隊。

エカはその要、この世界で唯一、魔王を倒す力を持つ者だ。

倒すべき魔王は、目の前にいる。


でも、もう戦う気は無いと言う魔王を、殺す必要があるんだろうか?

防具どころか服も着ていない無防備な子供に、爆裂魔法を撃っていいんだろうか?


「ボクが憎いでしょ? 君を殺しかけて、恋人を攫った魔王なんだから」


と言う子供は、目を伏せてエカから視線を逸らした。


エカは複雑な気持ちになった。

自分が殺されかけたことは、記憶が無いのでどうでもいい。

でもソナを攫ったことは許せないと思う。

一方で、何故魔王がここまでソナに執着したのかが気になった。


「聞きたい事がある。世界樹の枝に実る魂の果実の中から、何故ソナの魂を選んで異世界に落とした?」


問いかけるエカの声は、いつもより低い。

魔王がしたことで、エカ一番許せないのはソナを精神的に追い詰めたことだから。


「それは、あの子の魂が温かくて気持ちいい光を放ってたから。欲しかったんだ……あの温もりが……」


答える子供は、エカの目を見ようとはしない。

多分、今はそれが悪いことだと分かってるみたいだ。


「俺も聞きたい。お城でルルを検査した時の結果は何だったの?」


アズも問いを投げかけた。

ルルは王宮の生物用鑑定器具みたいなもので調べられた事がある。

結果は魔族で、魔王とは表示されなかった。


「完全覚醒前のボクが無意識に情報をいじった結果だよ。実際は、こちらへ転移したソナを追いかけて来た時に、神の力で動物の卵子に転生させられてる」


半目になって溜息混じりに答えたルルは、しくじったと言いたそうな感じだ。


「ボクは動物の輪廻に組み込まれてしまった。でも、今はそれで良かったって思ってる」


そう言うと、ケモミミの子供はアズに笑みを向けた。


「もう1つ答えて。ルルが俺に懐いてくれたのは、演技?」

「ううん、本気。だから今、大人しく殺されるのを待ってるんだよ」


アズがまた問いかけたら、ルルは少し寂しそうに微笑んだ。

ルルの澄んだ黒い瞳から涙が溢れ、顔の横を伝って地面に落ちる。


「ボクが欲しかったもの、全てアズがくれた。だからもう死んでも悔いは無い」

「……ルル……」

「近付いたらダメだよ。完全回避がかかったら殺せないでしょ?」


泣き笑いを浮かべたルルは、思わず近寄ろうとするアズを片手を上げて制した。


「エカ、爆裂魔法を撃って。この身体の心臓の位置はもう知ってるよね」

「昨夜、心臓の位置を把握した後、君に刺されたみたいだけど」


そんな会話を交わしながら、エカは気持ちを整える。

これは魔王、倒すべき者。

爆裂魔法の使い手は、魔王を倒すために生まれてくる者。

だから自分はこの子供に爆裂魔法を使うんだという考えがまとまった。


「ボクが眠ってしまうと防衛本能が出ちゃうから、今回は起きてるよ」


そう言うと、ルルは地面に仰向けになったまま空を見つめる。

エカの方を見ないのは、爆裂魔法が怖いからかもしれない。


『フラム、魔王専用のあれを撃つよ』

『……わかった』


エカとボクは、念話でこっそり話す。


魔王専用の爆裂魔法・存在の完全破壊(デストリュクシオン)

それはエカの肉体が消滅する代わりに、魔王を完全に破壊する魔法。

不死鳥(フェニックス)のボクが召喚獣として与えられたのは、その魔法を使った時のため。


魔法を組み上げ始めるエカの周囲に、透明な泡が舞い始める。

空を見つめていたルルが、死を覚悟してそっと目を閉じる。


「待って!」


今まさに魔法が起動しようとした時、アズが動いた。


「?!」


駆け寄ったアズに抱き上げられて、ルルが驚いて目を開ける。


「アズ、抱いてくれるのは嬉しいけど、それじゃ爆裂魔法が効かないよ」


抱き締められたルルは、少し困ったように微笑む。

アズを押しのけたりしないのは、やっぱり嬉しいからなんだろうね。


「ルルを殺さないで。俺の大切な子なんだ」


自分の身体でルルを庇うように抱き締めながら、アズがエカを見つめて言う。

こんなアズを見るのは、二度目かもしれない。


「アズ……ボクは魔王だよ……?」

「俺はルルが何であっても、可愛い小さな宝物だって思ってるよ」


戸惑うルルにアズが言うのは、以前も告げた言葉。

堪えきれなくなったのか、ルルがアズにしがみついて号泣し始めた。


「……」


エカは、起動しかけていた魔法を解除して、穏やかな表情でルルを見つめる。


ソナに関する事で、魔王に対しては色々と思うところはある。

でも今のアズとルルを見ていたら、魔王を殺すのは正解ではない気がした。



『双子の勇者の力で魔王は消滅、ソナとルルの救出完了。みんな、帰還するわよ』


ロコの念話が召喚獣使いたちに告げられる。

討伐隊がアサギリ島を離れてゆく。


「ルル、これ着て」


アズは異空間倉庫(ストレージ)にいつも入れている服を取り出して、ルルに着せてあげた。


「じゃ、帰ろうか」


口元に笑みを浮かべるエカを乗せて、ボクは空へ飛び立った。

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